憲法違反、投票でブレーキかけよう 視標「臨時国会召集」
安倍・菅政権では、さまざまな憲法違反がまかり通ってきた。強い危機感を感じた私は、憲法入門書「檻(おり)の中のライオン」を出版し、全国で講演活動を行ってきた。国家権力をライオン、憲法を檻にたとえたもので、次のような内容である。

私たちが人間らしく生きていくには、強い力で仕切る国家権力(百獣の王ライオン)が必要だ。しかし、ライオンは暴れたら怖い(権力は乱用される)。そこで、檻の中(憲法というルールの枠内)で権力を使ってもらう(立憲主義)。
私たちを守る檻だから、檻をつくるのは私たち(国民主権)。ライオンを選ぶのも私たち(民主主義)。ライオンを檻に入れることで、檻の外で暮らす私たちの自由(基本的人権)や平和が守られる―。
安倍政権以降、ライオンがたびたび檻を破った事例を集めると、1冊の本が出来上がったくらいである(拙著「檻を壊すライオン」)。
今まさに起きているのが、憲法53条違反だ。同条は、臨時国会について「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めている。
この規定に基づく臨時国会の召集要求が7月16日になされたが、内閣は放置してきた(新首相指名のための臨時国会が10月4日に召集されることが9月21日に閣議決定された)。
同様の要求放置は2015年、17年のほか、昨年にもあった。
ライオンが檻から出るのを防ぐブレーキシステムは2種類ある。民主主義(民意によるブレーキ)と権力分立(権力同士のブレーキ)である。53条にも、この二つの趣旨が含まれている。
民主主義とは単なる多数決ではない。53条の「4分の1」は「少数派」という意味である。少数派の要求に応え国会を開いて議論することで、多数決の乱用による人権侵害を防ぐことができる。
権力分立の観点からは、国会の信任をよりどころにして内閣が存在する議院内閣制では、内閣が信任に足るか否かを国会がチェックしなければならない。議会の多数派が内閣を構成するため、少数派たる野党によるチェックが重要であり、臨時国会の召集要求はその手段である。

今、新型コロナウイルス感染症対策など、国民のための議論が国会でなされるべき状況にあるのに、国会を開けば野党から追及を受け都合が悪い、自民党総裁選や衆院選対策の方が大事、憲法違反をしても国民は怒らないはず、という思惑だろう。誰のために政治をやっているのか。
53条違反を防ぐにはどうすればよいか。まず、権力分立のブレーキとして、裁判所が違憲判決を出す方法がある。ただ最高裁判例で、具体的な権利侵害を救うのに必要な限度で違憲判決を下すこととなっている。
17年の53条違反についての訴訟では、臨時国会を召集しないことによって具体的な権利侵害が生じるわけでないとして、合憲か違憲か判断しない判決となっている。憲法違反が起きても違憲判決が出るとは限らない。
そのため、残るは民主主義、つまり私たちの声や投票でブレーキをかけるしかない。
ライオンを檻の中に戻し、私たちのための政治が行われるかどうかは、主権者である私たちの自覚にかかっている。
(2021年9月14日配信、21日一部差し替え)