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審理6カ月の新制度、権利実現が不十分に   視標「民事訴訟法改正試案」

弁護士 国府泰道

 法制審議会(法相の諮問機関)の民事訴訟法(IT化関係)部会は2月、民事裁判のIT化に伴う民事訴訟法改正の中間試案を発表した。その中に新たな訴訟手続きとして「期間限定訴訟」の提案が入っている。

 期間限定訴訟とは、第1回口頭弁論の期日から審理終結までを6カ月に制限し、証拠は即時に取り調べることができるものに限定する手続きである。国民が迅速な裁判を求めていることが提案理由だとされている。

 しかし、日本の裁判は早い方で、世界銀行の調査では、契約の履行を求める訴訟の期間は、先進7カ国(G7)のうち、日本が第1位だ。

 期間限定訴訟で予定されているのは、問題となっている事柄が簡単な事件だと言われているが、そうした事件は現在でも短期間で終結している。

 他方、複雑で時間がかかっている事件は一定数あるが、それはさまざまな理由・要因によるものだ。それらを克服し、充実した審理で迅速化を図るための方策こそ、検討されなければならない。

 裁判官が多数の事件を同時に抱えて忙しいことに加え、法廷などが不足していて裁判の期日が入りにくいこと、証拠を収集する制度が諸外国と比べて不十分で、なかなか証拠を入手できないことなどが裁判を遅延させる原因となっている。

 このような現状の改善が先決だろう。現在の訴訟を充実かつ迅速化させる方策の検討を横に置いて、期間を限定して迅速化だけを進めようとするのは、国民に対する目くらましでしかない。

 また審理期間は、限定すれば確かに予測可能性が増すものの、主張や証拠を制限することで事実の解明は不十分となり、正当な権利の実現ができなくなる。拙速とも言える迅速さを国民が求めているとは思えない。諸外国でも、このような期間限定の訴訟制度は設けられていない。

 事実関係を解明して、国民の権利と義務を判断するのが裁判所の責務である。裁判所と裁判官の負担軽減のために審理を切り詰めるのは、本末転倒と言うほかない。

 一方、実際の裁判では、当事者が持っている資料や証拠は偏在していることが少なくない。

 例えば大きな会社は営業マンの業務報告書をはじめ数々の証拠書類があるが、零細企業や個人には、数えるほどの証拠しかないことが多い。即時に取り調べることのできる証拠に限る期間限定訴訟だと、証拠の収集能力が劣る「訴訟弱者」に不利に働くことは明白である。

 期間限定訴訟の対象から、消費者と事業者の紛争(消費者事件)や労働事件は除くという案もあるが、当事者の間に情報や経済力に差がある事件は、この二つの分野だけではなく、基本的な問題は何ら解決しない。

 中間試案に対する2~5月のパブリックコメント(意見公募)では、期間限定訴訟の導入に賛成する意見は少なく、消費者団体や労働団体、多くの弁護士会から反対意見が寄せられた。この制度が国民的支持を得ていないことは、こうした結果がよく示している。

 それでも裁判所・法務省は導入を強行しようとするのだろうか。結論は9~10月の法制審で出すことになる。裁判の利用者である国民はこの制度を巡る国の動きをしっかり監視する必要がある。

 (2021年8月26日配信)

プロフィール: こくふ・やすみち 1955年京都府生まれ。83年弁護士登録(大阪弁護士会)。日弁連消費者問題対策委員会委員長などを歴任。これまで数多くの消費者事件を手掛けてきた。

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