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本質的問題に向き合わず    同姓合意、なぜ婚姻要件か   視標「夫婦別姓訴訟の最高裁決定」

東京都立大教授 木村草太

 最高裁が2015年に合憲判断を示した第1次夫婦別姓訴訟では、①姓変更を強制されない自由(個人の尊重を定めた憲法13条)②婚姻の自由(憲法24条)③姓変更率の男女不均衡による平等権(法の下の平等を定めた憲法14条1項)―の侵害が主張された。

 これに対し、最高裁は、婚姻による姓の変更は、当人の意思で婚姻届を出した結果であり、自由の侵害はなく(①②)、また、民法750条は、男性が姓変更することも認めているから平等権侵害もない(③)とした。

 今回の夫婦別姓訴訟(婚姻届受理申し立て事件)で問題とされたのは、④同姓とする合意を婚姻成立要件とすることによる平等権侵害と、⑤婚姻する権利の侵害だ。

 現在の民法・戸籍法では、同姓の合意をして(民法750条)、それを婚姻届に表示しなければ受理されず(戸籍法74条1号)、婚姻が成立しない(民法739条)。今回の事件の申立人は、いずれも同姓合意以外の婚姻要件を満たし、婚姻届を提出したにもかかわらず、受理されなかった。

 申し立てに対する家裁・高裁の判断は異様だった。東京家裁本庁は、別姓を希望したために婚姻制度の適用を受けられないことは、「法が信条等によって差別的取り扱いをするものとはいえない」と述べ、また、東京高裁は「ある法規の適用を望まない者に当該法規を適用すること自体は(中略)差別的取り扱いにはあたらない」と言う。

 一読して意味不明だが、要するに、「民法も戸籍法も、同姓合意したか否かによって、婚姻できるか否かを区別していない」との考えのようだ。

 なぜ、裁判所はここまで筋の通らないことを言うのか。私には、裁判官がこの問題に正面から取り組むのを避けているように見えた。だから、昨年末、最高裁がこの問題を大法廷で扱うと決めたのは意外だった。正しい法理論に基づく見解を示すことへの期待もした。

 しかし、今回の決定は、その期待を裏切った。大法廷決定は、④平等権侵害の争点を「単なる法令違反を主張するものまたはその前提を欠くもの」と述べ、⑤婚姻の自由の問題のみを議論した。

 だが、言うまでもなく、両者は異なる争点だ。最高裁への特別抗告の理由書では、新たな争点として憲法14条1項の主張を第一に据えている。最高裁判事の多数派は文書を適切に読む能力を欠いていたとしか思えない。

 今回問題とされたのは「なぜ同姓合意をしないと、子どもの共同親権設定や婚姻関係の戸籍による公証など、婚姻の効果を得られないのか」だ。これに答えるなら、同姓希望カップルと別姓希望カップルとを区別する合理的理由の説明が必要となる。

 第1次訴訟判決では当然、この区別の合理性を全く論じていない。にもかかわらず、今回の決定はその判決に引きずられ「同姓希望カップルと別姓希望カップルとを区別することが、憲法にかなうのか」という本質的問題に全く向き合わなかった。

 滑稽なのは、裁判官については、最高裁自身が17年から判決書などでの旧姓使用を認めたことだ。裁判以外の場面でも、婚姻後に別姓を名乗れずに困っているのは同じではないか。われ関せずの態度で良いはずがない。

 (2021年6月23日配信)

プロフィール:きむら・そうた 1980年横浜市生まれ。東大卒。憲法学者。東大助手などを経て現職。「憲法学者の思考法」など著書多数。

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