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人権無視は許されない コロナ禍を利用するな  国連有害廃棄物に関する特別報告者・バスクト・トゥンジャク

国連有害廃棄物に関する特別報告者  バスクト・トゥンジャク

 東京電力福島第1原発事故で汚染された水の処分に関する決定によって、今後数週間のうちに日本政府は、人権と環境を守り、国際的な義務を果たすことをどれだけ大切にしているか否かを世界に示す機会を得ることになる。


 東京電力福島第1原発事故後、私をはじめとする国連特別報告者は、一貫して日本政府のアプローチについて懸念を表明してきた。再定住を促すために放射線被ばくの「許容限度」を引き上げることが、子どもたちに対する政府の人権義務に違反していること、移民や貧困層が除染作業で搾取される可能性があることなどについてだ。


 そして私たちの直近の懸念は、福島原発で蓄積された放射性の汚染水を海に投棄するかどうかを決定するためのプロセスを加速させるために、日本政府が新型コロナウイルスによる危機を利用しているということだ。


 唯一の被爆国の日本が、福島原発事故の放射性物質による汚染への対応で、このような道を歩むのかと思うと、胸が痛む。


 福島原発からの汚染水放出が、地元の漁業者の生活に大きな打撃を与えることは間違いない。健康面や環境面でのリスクにかかわらず、風評被害は取り返しのつかないものとなり、地元の魚介類に目に見えない永久的な傷痕を残すことになるだろう。地域社会の伝統的な生き方に伴う文化や尊厳の喪失は、お金には代えられない。


 2011年3月の悲劇的な出来事によって壊滅的な打撃を受けた福島の地域社会は、汚染水の環境への放出に対する懸念と反対を表明してきた。尊厳を持って生活し、文化を享受し、意図的に新たな汚染にさらされないような環境を整えることは、彼らの人権問題である。これらの権利は完全に尊重されるべきであり、日本政府が無視することは許されない。


 放射性物質の海洋放出は、日本と他国との国際関係に害を与える可能性もある。近隣諸国は既に大量の放射性トリチウムなどの汚染物質が放出されることに懸念を表明している。

 日本は国際法上、国境を越える環境被害防止の義務を負っている。具体的には、海洋投棄に関するロンドン条約に基づき、廃棄物の海洋投棄に関して予防措置を講じる義務を負う。低レベル放射線被ばくによる健康と環境への影響が科学的に不確実であることを考えると、汚染水の投棄は、この国際法の趣旨に矛盾すると思われる。

 住民には国際的に認められた自由があり、事前のインフォームドコンセントの権利がある。これには、彼らに関連する水域での廃棄物処理や彼らの食物を汚染する可能性がある行為も含まれる。

 日本政府にはこの汚染がどれほど小さなものであっても、影響を受ける可能性のある人々と協議する義務があるが、それを十分に果たしたとは言いがたい。日本政府は、現在のパンデミックの間、国際人権法で要求されているような意味のある協議を行っていないし、することができていない。コロナ危機の中で、意思決定を加速するようなプロセスを進めることに正当性はない。日本には廃水を長期間、保管する物理的なスペースがあるはずだ。


 原発事故の悲劇は取り返しようがないが、日本には被害を最小限に抑える機会がまだ残されている。私は、海洋放出には日本の漁業者の生活や日本の国際的な評判にまつわる大きなリスクがあると考える。
 日本政府には、どのようなレガシー(遺産)を次世代に残すのか、人権と環境の真のチャンピオンとなるのかならないのかということを、いま一度、深く考えてほしい。  ×   ×

 BASKUT TUNCAK 米シアトル市生まれ。米国で生物化学の学位取得後、国際法の博士号を取得。2014年から、国連が指名する「有害物質と廃棄物の環境面での適切な管理および廃棄の人権への影響に関する特別報告者」を務める。

バスクト・トゥンジャク

名前 :バスクト・トゥンジャク

肩書き:国連有害廃棄物に関する特別報告者 

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