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各テーマの専門家に原稿を依頼したり、取材してまとめたりした「識者評論」「視標」、編集委員や論説委員、専門記者らが執筆した「核心評論」を随時アップ。

強靱な市民社会を  緊急事態宣言は一手段 核心評論「新型コロナ」

共同通信編集委員 井田徹治

 安倍晋三首相が新型コロナウイルスまん延防止のため緊急事態宣言を発して2週間が経過した。全国に拡大した措置を歓迎する声が多く「遅すぎた」との意見もある。事態が改善できると考えるのは早計だし、市民の自由と権利が侵害される負の側面もある。宣言の効果と副作用に監視と批判の目を向けることが、市民社会に求められる。

 まん延防止に必要なのは可能な限り外に出ないこと、やむを得ず外出する場合も、できるだけ他人との接触を避けることだ。宣言はこれを達成する一手段にすぎない。

 日本の宣言は手段として極めて心もとない。強制力はなく、店舗や各種の社会的施設に自粛を要請するだけだ。権利制限と不可分一体であるはずの補償は不十分、しかも発動と同時ではないので、やむなく店を開ける事業者も、通勤する会社員も少なくない。

 結局、緊急事態宣言下の日本での対策は、社会の構成員である市民の行動とモラル、つまりは「市民社会の力」に頼るしかないのだ。

 基本的な権利を保障され、判断材料となる情報を十分に提供された市民一人一人が、自らのモラルにのっとって必要とされる行動を取り、互いに支え合う。コロナ禍によって最も大きな被害を受ける社会弱者の救済を担うのは、官僚ではなく、多くの非政府組織(NGO)やNPOなどだ。

 強靱な市民社会がなければ、宣言の効果は限定的で、市民の権利が安易に侵害され、今後の前例になるという副作用の方が大きくなる。「今は政権批判は控えて、一丸となって闘おう」との声が聞こえ始め、特殊警棒を見せた警察官が夜の街を歩き回る姿に、強い危機感を感じる。

 だが現政権は7年間、市民社会を軽んじ、その力をそぐ政策ばかりを展開してきた。情報公開や報道の自由を軽視し、非民主的なプロセスで政策決定を繰り返した。国会を取り巻き、安保法制への反対を叫んだ多くの市民の声にも、脱原発を望む多数の市民の意見にも耳を貸さなかった。

 頼るべきは市民の行動なのだから、政権側は抑圧的な政策を改め、市民社会の力を強める政策に転換するべきだ。政策決定の根拠となった全ての科学的データと議論の経緯を公表し、市民や多くの科学者の批判的検証を受けるべきだ。

 自分たちに都合がいい科学者の声だけではなく、多数の科学者の声に耳を傾け、政策決定に生かす姿勢が必要だ。それでなければ政策への信頼感は生まれず、効果も少ないだろう。
 市民団体の役割も重要だ。理不尽な同調圧力に屈することなく声を上げ、権利と自由の上に築かれる強靱な市民社会の実現に向けた取り組みを強めることが今、求められている。

(2020年4月23日配信)

名前 :井田徹治

肩書き:共同通信編集委員

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