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勾留、取り調べ改革必要  視標「ゴーン日産前会長ら再逮捕」

弁護士 落合洋司
 東京地検特捜部は10日、日産前会長のカルロス・ゴーン容疑者ら2人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴し、別年度の同法違反容疑で再逮捕した。この事件の問題点や今後の焦点について述べたい。

 2人と、併せて起訴された日産自動車(法人)が有罪になるためには、有価証券報告書中の重要事項について虚偽記載があり、2人が虚偽と認識していたこと(故意)の立証が必要となる。

 虚偽があったとされているのは前会長が将来受け取るべき報酬であり、それが確定したものであった上、有価証券報告書中の重要事項と言えなければならない。

 確定したものであったことを2人は否認していると報じられているが、特捜部は、日産社内で2人の間近にいた関係者から、電子メールなどの証拠提出を受け必要に応じて司法取引も行って、相当な証拠を得ているものと推測される。

 役員報酬を重要事項とした立件例は見当たらないが、過少記載分が巨額に上り、前会長への多額報酬が繰り返し株主総会で問題になってきた経緯にも照らしつつ、裁判所が、投資家の判断に影響を及ぼす重要事項に当たると判断するかどうか注目される。

 重要事項についての虚偽記載が客観的に認められても、2人がその認識を持っていたかは別問題である。報じられているように、2人が金融庁や社外の専門家(弁護士など)から将来の報酬について記載する必要がないとのアドバイスを受けていた事実が実際にあれば、それは虚偽記載の認識を否定する方向に働くことになる。

 公判では、認識があったとする検察側となかったとする2人の弁護側が、それぞれ証拠を出し合って熾烈(しれつ)な攻防が展開される可能性が高い。

 この事件では、捜査手法や日本の刑事司法制度が海外から強く批判されている。
 
 日本の捜査の特徴として、起訴前の勾留期間が諸外国に比べ長く、取り調べへの弁護人の立ち会いが認められていない。東京地検は国により刑事司法制度は異なると反論したが、今やグローバルスタンダードから逸脱した刑事司法制度は世界中から批判を受けることを謙虚に受け止め、今後の制度改革へと結実させる必要があるだろう。

 さらに有価証券報告書虚偽記載を、あえて前の5年分とその後の3年分で分断し、後者で再逮捕した捜査手法にも、身柄拘束を長引かせ捜査に利用するためのあざとい時間稼ぎという強い批判が浴びせられている。

 日産はゴーン容疑者を会長職から解任し、その理由として公私混同、私的流用も挙げている。そうした事実が刑事事件としても立件されるか、捜査の行方が注目される。

 ただ、ガバナンス上で問題がある振る舞いが、直ちに刑事事件として横領、背任に該当するとは言えない。報じられているように、問題となる行為が日本国内外にまたがって行われ、金銭の流れなど立証が難しいという側面もある。

 そういった困難性を克服して、いかに特捜部が立件、起訴へと結び付けられるかも、今後の焦点の一つだろう。
 
 (2017年12月10日配信)
おちあい・ようじ

名前 :おちあい・ようじ

プロフィール:1964年広島県生まれ。早稲田大卒。89年検事となり、東京地検や名古屋地検などに勤務。2000年に退官して弁護士に。東京弁護士会所属。

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