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法令解釈、独善の可能性 核心評論「ゴーン日産前会長3回目逮捕」

共同通信編集委員 竹田昌弘
 3回目の逮捕となった、カルロス・ゴーン日産自動車前会長に対する東京地検特捜部の捜査。容疑がどれもすっきりせず、元頭取らの無罪が確定した日本長期信用銀行(長銀、現新生銀行)の事件などで、特捜部の法令解釈や見立てが裁判所に退けられたのを思い出した。
 
 最初と2回目の逮捕容疑は、有価証券報告書(有報)の重要事項に虚偽を記載した金融商品取引法違反。日産の2011年3月期~18年3月期の有報には、前会長の報酬は7億3500万円~10億9800万円とあるが、特捜部によると、本当の報酬は約18億円~二十数億円で、事業年度ごとに不足分は退任後に受ける覚書を作成していた。
 
 内閣府令の記載例で年度ごとに「受ける見込みの額が明らかになった」報酬も有報に記載するよう求めているとして、特捜部は退任後に受け取る報酬を含めていないのは虚偽記載だと解釈した。
 
 しかし、役員報酬の虚偽記載は立件例がなく、こうした法令解釈も初めて。役員報酬は企業価値に影響せず、虚偽を記載すると処罰される「重要事項」には当たらないとする学者らも多い。各期の売上高は10兆円前後で、報酬20億円でも0・002%にすぎない。
 
 退任後に受け取る報酬について、前会長は「引当金もなく、未確定」、一緒に逮捕された前代表取締役は「金融庁や弁護士に相談し、記載する必要はないという回答を得た」と供述している。
 
 特捜部が5年分を最初の逮捕容疑、残りの3年分を2回目の逮捕容疑とした手法は国内外から批判され、裁判所は勾留延長を認めなかった。
 
 3回目の逮捕容疑のうち、10年前の会社法違反(特別背任)は本来なら公訴時効(7年)が成立しているが、外国にいる期間は時効の進行が停止するので、特捜部は前会長の場合、成立しないとしている。
 
 ただ時間の経過で証拠が散逸し、関係者の記憶も薄れて冤罪(えんざい)の恐れがある一方、処罰の必要性は低下するため、時効が定められている。定期的に来日し、逃亡を続けたわけでもないことを踏まえ、慎重に対応すべきではなかったか。特別背任の立件に必要な日産の損害なども判然としない。
 
 そこで思い出した長銀事件は有報虚偽記載でも立件例が多い粉飾決算。特捜部は1998年3月期決算で不良債権を厳格に査定する新基準を使わず、損失を少なく記載したと主張したが、最高裁は「当時は過渡期。従来の基準を使っても違法ではない」と判断した。
 
 また降圧剤ディオバンの臨床研究を巡り、改ざんしたデータを使った論文を医学誌に掲載させたのは誇大広告に当たるとして、特捜部は製薬会社と元社員を薬事法違反の罪で起訴したが、一、二審とも論文は「広告に当たらない」などとして無罪を言い渡している。
 
 これらの事件で明らかになった、特捜部による独善的な法令解釈や見立てが前会長の裁判でも指摘される可能性がある。
 
 (2017年12月23日配信)

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