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各テーマの専門家に原稿を依頼したり、取材してまとめたりした「識者評論」「視標」、編集委員や論説委員、専門記者らが執筆した「核心評論」を随時アップ。

炭素税論議に注目 視標「米国の温暖化政策」

元地球環境問題担当大使 西村六善

 周知のとおり、トランプ米大統領は米国第一主義を打ち出している。米国は世界の問題に過剰に関与して、損をしてきたという理由からだ。だから貿易で保護主義に移行し、国内産業を振興し、雇用を増大させる。このために特に環境規制などを廃止し、石油、ガス、石炭産業を大々的に振興する。国際的にも国連のような世界機関は敵視する。

 モノやサービス、資本や労働力の自由な移動を促してきたグローバリズムには背を向ける。一言でいえば狭量な自国主義に走ろうとしている。

 しかし、グローバリズムから最大の利益を引き出したのはほかならぬ米国だ。米国は戦後70年、世界経済成長の最大のけん引役であり受益者だった。米国のリベラルな民主主義制度が戦後の自由主義の国際連帯をつくり上げ、米国自身がこの連帯の最大の受益者だった。米国が初めから閉鎖体制であれば、今日の成長も世界の民主主義同盟もなかったはずだ。

 このグローバリズムの成果を性急に否定し、一国主義に向かうトランプ政権は世界に衝撃を与えている。米国は国連への拠出金を大幅に削減する構えだ。世界最強の国が世界の平和や貧困に背を向けるのだ。

 大きな問題は、地球温暖化防止などは全く眼中にないという点だ。大統領は選挙期間中、温暖化防止のパリ協定からの離脱を公言し、関係閣僚らはいずれも温暖化の否定論者だ。しかもグローバリズムで莫大(ばくだい)な利益を得てきた富豪ばかりだ。名状し難い思想の混乱がある。

 だが、米国の保守の中にも、このままでは駄目だと考える人々が現れた。ベーカー元国務長官、ポールソン元財務長官、シュルツ元国務長官らは2月初め、二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて税をかける炭素税の導入をホワイトハウスに提案した。保守の側から温暖化の危険を正しく認識して防止策を提案したのだ。

 1トン当たりのCO2排出に40ドル(約4400円)の税金を課すことで、米国はCO2排出を大幅に削減し、2025年に28%減(05年比)というパリ協定の約束を実現できるという。そしてこの新しい税収を全額国民に還付して貧困対策に充てるとしている。

 これはCO2の排出に値段をつけることで化石燃料の消費を抑える政策で「カーボンプライシング(炭素価格付け)」の一つだ。この方が、政府の規制政策より費用効果的にCO2削減が可能になる。世界中の学者や専門家、そしてビジネス指導者が一致して支持している考え方だ。

 実は、トランプ大統領はパリ協定離脱ではちゅうちょしているとされる。ティラーソン国務長官らが反対しているからだ。離脱しない場合、パリ協定の約束を実行するにはカーボンプライシング制度は役に立つかもしれない。国際貿易の中心となる米国がこの政策を導入すれば多くの国が採用する可能性がある。こうなると世界の温暖化対策に大きなインパクトがある。

 パリ協定を支持する日本政府は、米国に強く残留を求めるべきだし、独自のカーボンプライシング制度の導入に向けた議論を始めるべきだ。

  (2017年04月11日配信)

西村六善

名前 :西村六善

肩書き:元地球環境問題担当大使

プロフィール: にしむら むつよし 1940年北海道生まれ。62年上智大中退、外務省入省後、欧亜局長、地球環境問題担当大使などを歴任。内閣官房参与なども務めた。

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