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各テーマの専門家に原稿を依頼したり、取材してまとめたりした「識者評論」「視標」、編集委員や論説委員、専門記者らが執筆した「核心評論」を随時アップ。

適正手続きないがしろ 飯島滋明さん 連載企画「憲法 マイストーリー」第9回  

      第9回
      第9回

 2011年の憲法記念日。1週間後の5月10日に結婚する女性とその両親と4人で広島を旅行中の飯島滋明さん(1969年生まれ)がJR広島駅ビル2階で、婚約者に電話をかけた。駅ビルには、1人でカキ料理店を探しに訪れた。「駅にいるから来て」と電話で言おうとした。携帯電話の履歴によれば、午後8時13分のことだ。

 婚約者が電話に出た直後、数人の警察官が後ろからいきなり飯島さんの両腕をつかんだ。

 「署に来い」
 「何なんだ」
 「痴漢だ」
 「やってない」

 そう言いながら飯島さんは、駅ビルに向かう途中、駅前の広島東郵便局前の歩道をふさぐように横に並び、話ながら移動する高校生の集団を思い出した。追い抜こうとすると、自転車に乗った女子生徒がよろけて、飯島さんにぶつかった。

2011年の憲法記念日に、飯島さんが高校生の集団と遭遇した広島東郵便局前の歩道=8月5日、広島市南区(撮影・竹田昌弘)
2011年の憲法記念日に、飯島さんが高校生の集団と遭遇した広島東郵便局前の歩道=8月5日、広島市南区(撮影・竹田昌弘)

 ▽脅迫的取り調べ

 飯島さんは憲法の研究者で名古屋学院大の当時准教授。痴漢を否定する一方「任意捜査」と言いながら腕をつかんで連行しようとする警察官に抗議を続けると、同8時半すぎ、広島県迷惑行為防止条例違反の疑いで現行犯逮捕されてしまった。

 共同通信の配信記事によると、容疑は「午後8時ごろ、広島市南区大須賀町の歩道で女子高校生=当時(17)=の太ももを触り、その後同区松原町の路上で別の女子高校生=当時(17)=の腰を触った疑い」とされ、目撃者が近くの交番に通報したことが捜査のきっかけとなっている。

 「(松原町の)郵便局前で女子生徒とぶつかったが、触ってないし、大須賀町では、高校生と遭遇していない。目撃者は一緒にいた男子生徒で、容疑は高校生たちの一方的な話だ」と飯島さん。

 それなのに、警察官は親の敵を見るような目で「あなたが犯人だ」と繰り返し「うそをついている」「(証拠の)写真がある」などと脅迫的な取り調べを続けた。

 飯島さんは虚偽の自白をしてしまう人の気持ちが分かり「痴漢の冤罪(えんざい)が多いが、どう思うか」と尋ねてみた。「今回は冤罪ではない」と警察官は言い切った。

 5日午前に送検され、検察官も飯島さんを犯人と決めつけたような態度で裁判所に勾留を請求。しかし裁判官は却下し、同日夕、釈放された。

 「警察、検察は真実より訴追ばかり考える。自白させようと、写真があるとうそまでつく。発生から30分以上たって現場から離れた駅ビルでの現行犯逮捕も違法だろう。こんな捜査は法の適正な手続きを定めた憲法31条に反し、冤罪を生む」と飯島さんは指摘する。

 ▽裁判官も31条違反

 不起訴処分は同年8月24日付。婚約者とは予定通り結婚したものの、不起訴が決まるまで授業は自粛し、9月から予定していたフランス留学も中止せざるを得なかった。

 新聞に「一人で広島に来ていた」などと事実ではないことを報じられ、実名での逮捕報道でインターネット上に中傷する書き込みが相次いだ。

 外出もままならず、飯島さんは自らの経験から「警察情報に依拠した犯人視報道を慎み、私人の逮捕は原則匿名報道にすべきだ」と訴えている。

 2016年に教授となり、地元名古屋で市民団体「戦争をさせない1000人委員会あいち」の事務局長も務める飯島さん。

 この市民団体主催の集会が18年7月21日、名古屋市内で開かれ、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設反対運動のリーダー、山城博治さん(1952年生まれ)が抗議活動の現状などを語った。

 山城さんは2016~17年、大量のブロックを積んで移設工事を妨げたとする威力業務妨害や有刺鉄線を切断したとする器物損壊などの疑いで3回逮捕され、約5カ月にわたって勾留された。

事務局長を務める市民団体主催の集会で「私たちが『おかしい』と声を上げていくことが大事だ」と呼び掛ける飯島滋明さん=2018年7月21日、名古屋市中区(撮影・竹田昌弘)
事務局長を務める市民団体主催の集会で「私たちが『おかしい』と声を上げていくことが大事だ」と呼び掛ける飯島滋明さん=2018年7月21日、名古屋市中区(撮影・竹田昌弘)

 「憲法31条に反する、山城さんの長期勾留を許可した裁判官がいる。裁判所は憲法の番人ではないのか。辺野古では、警察官や海上保安官が市民に暴力を振るい、やはり31条が無視されている。私たちが『おかしい』と声を上げていくことが大事だ。頑張っていこう」

 山城さんの講演に先立ち、飯島さんが300人近い集会参加者に呼び掛けた。憲法をないがしろにさせないために。(共同通信編集委員兼論説委員 竹田昌弘)

      第9回
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痴漢冤罪

 東京都世田谷区を走行中の電車内で2006年4月、女子高校生に痴漢行為をしたとして、強制わいせつの罪に問われた男性大学教授に対し、最高裁は09年4月、実刑の一、二審判決を破棄、無罪判決を言い渡した。

 判決では、痴漢事件は「客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠となることが多い上、被害者の思い込みで犯人とされた場合は防御が容易でないという特質があり、特に慎重な判断が求められる」との考え方が明らかにされた。

 また最高裁は京都市営地下鉄の車内で起きた痴漢事件を巡る14年11月の決定で、容疑者の勾留を認めるかどうかは「罪証隠滅の現実的可能性の程度」に左右されるとの判断基準を示し、会社員の容疑者に対する勾留請求却下を支持した。これらの判例により、痴漢事件の捜査や裁判は慎重になったと言われている。(竹田)

 (2018年9月2日配信)

 

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