メニュー 閉じる
全国

全国

47オピニオン

各テーマの専門家に原稿を依頼したり、取材してまとめたりした「識者評論」「視標」、編集委員や論説委員、専門記者らが執筆した「核心評論」を随時アップ。

個人尊重、絵に描いた餅  宮台真司さん 連載企画「憲法 マイストーリー」第8回  

       第8回
       第8回

 専門書や化石、標本、研究用器具などが並ぶ東京・下北沢のショップ&カフェ「ダーウィンルーム」。その2階で2018年7月23日夜、首都大東京教授の社会学者、宮台真司さん(1959生まれ)の緊急スペシャルトーク「オウム真理教の教訓」が開かれ、限定予約の50人が集まった。

 7月6日、オウムの松本智津夫元死刑囚=執行時(63)、教祖名麻原彰晃=ら7人の死刑が執行されたことを受けた催しだ。宮台さんが黒板の前に立ち、話し始める。

松本智津夫元死刑囚らの刑執行を受けて開かれたトークイベントで話す宮台真司さん=2018年7月23日、東京・下北沢(撮影・竹田昌弘)
松本智津夫元死刑囚らの刑執行を受けて開かれたトークイベントで話す宮台真司さん=2018年7月23日、東京・下北沢(撮影・竹田昌弘)

 

 「オウムの元幹部たちは自分の損得勘定から教祖への忖度(そんたく)競争を繰り返した。森友(学園問題で決裁文書を改ざんするなどした)官僚と同じ。旧帝国陸・海軍でも、日大アメフット部でも同じ日本の組織メカニズム。だから、オウムが示唆した危険性は変わらない」

 ▽恐れながら生きる

 宮台さんによると、誰もが「未来は今より良くなる」と考えていた1980年代、大学や就職先で「こんなはずじゃなかった」という不全感を持ったエリートたちが宗教団体のオウムへ、次々と吸い寄せられた。

 彼らは教祖から「社会が間違っている」と言われてとても納得した。さらに神秘体験を通して帰依を強め、忖度競争に明け暮れる幹部になって大罪を犯した。

 ただ元幹部の上祐史浩さん(1962年生まれ)は宮台さんに「教祖には神通力があると信じていたが、神秘体験はテクニックを知れば誰でもできると後に知った」と話したそうだ。

 宮台さんは「長く前提にしてきたものが当てにならなくなると、不全感を持つ。今の若者は高みを目指すのではなく負けないように、『KY(空気が読めない)』と言われないように、恐れながら生きている。不全感から始まるオウム的なものは今もある」と警告した。

 宮台さん自身は引っ込み思案だったが、父親の転勤で小学校を何度も転校させられるうちに「今度の学校では、このキャラでいくか」となりすましが上手になった。

 東京で中高一貫の麻布学園に入ると、教室へ出前を取ったり、校舎内でバイクを走らせたり。そんな学校は「法の外にシンクロ(同調)する」場所。そこに損得勘定も忖度もなく、なりすます必要もなかった。

 宮台さんは「『法外のシンクロ』はお祭り、祝祭のような時空。祝祭で時折はみ出し行動をするので、普段は法の内側で不全感にさいなまれることなく、生きていける」と解説する。

 ▽「法外のシンクロ」

 東大で社会学を学び、ドキュメンタリーや映画の仕事に就きたいと考えていたが、当時交際していた女性が就職活動の時期に病気となり、看病に追われた。ゼミの吉田民人教授(故人)から「大学院でも来るか」と言われ、研究者の道へ。

 リサーチ会社の仕事で自己啓発セミナーに潜入調査したり、新しい避妊具の使用具合を調べたりして現場主義を培い、80年代半ばに登場したテレホンクラブやその後の援助交際、サブカルチャーなどを研究。94年に著書「制服少女たちの選択」を刊行した。

宮台真司さんの著作(写真は宮台さん提供)
宮台真司さんの著作(写真は宮台さん提供)

 また地下鉄サリン事件が起きた95年には「オウム完全克服マニュアル」というサブタイトルが付いた「終わりなき日常を生きろ」を出した。それぞれの立場の個人と社会の在り方を問う、この2冊が出世作となる。

 「憲法13条に『個人として尊重される』と明記されているが、みんなと仲良くすることと、思っていることを言うことが両立しない。仲良くが優先され、思っていることが言えないのでは、個人の尊重なんて絵に描いた餅だ。本当の仲の良さとは、思っていることを言い合っても崩れない関係であり、縮こまるなと言いたい」と宮台さん。

 7月25日夜は、インターネットで定期的に放映しているニコニコ生放送の「宮台真司とジョー横溝の深堀TV」に出演。米朝首脳会談の話題から「ポピュリズムの政治」に警鐘を鳴らした。

ニコニコ生放送の番組「宮台真司とジョー横溝の深堀TV」に寄せられ、画面に表示されるコメント。宮台さんはいつもコメントを読みながら話しているという=7月25日、東京・東銀座のドワンゴ(ドワンゴ提供)
ニコニコ生放送の番組「宮台真司とジョー横溝の深堀TV」に寄せられ、画面に表示されるコメント。宮台さんはいつもコメントを読みながら話しているという=7月25日、東京・東銀座のドワンゴ(ドワンゴ提供)

 宮台さんは「日本のような中流階級がいた時代は例外」とみる。格差社会であれ、ポピュリズム時代であれ、それぞれのやり方による「法外のシンクロ」を勧めている。(共同通信編集委員兼論説委員 竹田昌弘)

 

 

 

 

       第8回
       第8回

 

オウム真理教事件

 麻原彰晃と名乗った松本智津夫元死刑囚は1984年、前身団体を設立し、87年に「オウム真理教」と改称した。

 教団は宗教法人となった89年、信者の事故死を隠蔽(いんぺい)するため、脱会しようとした信者を殺害。さらに教団を批判する坂本堤弁護士と妻子を殺害した。

 90年の衆院選で惨敗後は武装化した省庁制の疑似国家を目指し、94~95年に松本、地下鉄両サリン事件、神経剤VX襲撃事件、公証役場事務長逮捕監禁致死事件などを起こした。一連の事件で計29人が亡くなった。

警視庁に移送されるオウム真理教の松本智津夫元死刑囚=1995年9月25日、東京・霞が関
警視庁に移送されるオウム真理教の松本智津夫元死刑囚=1995年9月25日、東京・霞が関

 2011~12年まで逃亡していた3人を含め計192人が起訴され、確定判決は松本元死刑囚と元幹部計13人が死刑、無期懲役6人、有期懲役168人(うち執行猶予87人)、罰金3人、無罪2人だった。法務省は18年7月6日に松本元死刑囚ら7人、同26日には残る6人の死刑を執行した。(竹田)

 (2018年7月31日配信)

最新記事

関連記事 一覧へ