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各テーマの専門家に原稿を依頼したり、取材してまとめたりした「識者評論」「視標」、編集委員や論説委員、専門記者らが執筆した「核心評論」を随時アップ。

がん治療を大転換させた  視標「本庶佑氏にノーベル賞」

岡山大教授 鵜殿平一郎

 本庶佑先生がノーベル医学生理学賞に決まった。免疫を制御する新しい仕組みを発見した先生らの研究成果により、がん治療は大転換した。続々と新しい治療薬の研究開発につながり、多くのがん患者に希望を生み出している。これほど時宜を得た受賞はないと思う。

 本庶先生は、免疫細胞の一種、T細胞にある「PD1」というタンパク質を発見し、これが免疫の過剰な働きを抑える「ブレーキ役」であることを突き止めた。PD1は本来、T細胞が健康な細胞を壊してしまうのを防ぐのが役目だが、がんがT細胞の攻撃から逃れる際にも利用している。がんにとって非常に重要なブレーキだった。このブレーキを解除することでがんの治療を可能にした。非常に重要な成果だ。

 免疫を利用してがんを抑える、という考え方は古くからあり、免疫を活性化する、つまり免疫のアクセルを踏むさまざまな手法が試みられていたが、うまくいかなかった。がん免疫を研究テーマにしていた私も、正直なところ「免疫を利用してがんを治すのは不可能ではないか」と考えていた。

 その考えを変えざるを得なくなったのは、PD1を抑える「免疫チェックポイント阻害剤」の臨床試験の結果、皮膚がんの一種メラノーマへの高い効果が報告された時だ。対象は末期の患者。こんなことがあるのかと、ただただ驚いた。

 体の中にがんがあるということは、免疫細胞にブレーキがかかった状態と言える。車のサイドブレーキを引いたまま、アクセルを踏んでも車は前に進まない。今から考えれば、うまくいかなかったのは当たり前だが、ブレーキの発見を結果に結び付けたのはすごいことだ。米科学誌サイエンスは2013年の「今年のブレークスルー研究」のトップにがんの免疫療法を選んだ。

 免疫チェックポイント阻害剤は、1種類だけでは効く患者が少ないが、別の薬と併用することで効果が上がる例が報告されている。世界中の研究者がこぞって研究しており、今後も広がりが予想される。

 現在は進行がんの患者が対象だが、効く人を事前に見分けることができれば、最初から使う方がよいことが分かる可能性がある。ただ、これまでの抗がん剤とは違う仕組みで働くため、従来の知識や経験だけでは副作用に対処できないという難しさがある。

 副作用に適切に対処できる、免疫に詳しい専門家が、これからはがん医療チームに加わる必要がある。画期的な治療法の登場、普及で、がんの医療チームの在り方も変わっていかざるを得ないだろう。(聞き手は共同通信編集委員・吉本明美)

 (2018年10月1日配信)

うどの・へいいちろう

名前 :うどの・へいいちろう

プロフィール:1959年長崎市生まれ。長崎大卒。同大学助教授、理化学研究所チームリーダーなどを経て2011年から現職。専門は免疫学。

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