脱炭素への認識深めて 視標「多発する異常気象」
頻発する異常気象の背景に地球温暖化がある、という解説を聞いた人は多かったと思う。しかし、それが本当に意味するところは何だろうか。
ある年のある日に異常気象をもたらす直接的な原因は、その時に特有の気圧パターンだ。西日本豪雨は停滞した梅雨前線に水蒸気が流れ込んだことが原因であり、引き続く猛暑は太平洋高気圧とチベット高気圧に日本列島が覆われたことが原因だ、といった説明がなされる。
しかし、地球温暖化により、人間活動による地球温暖化が無かった場合と比較して、猛暑の気温は1度程度、豪雨の降水量は少なくとも7%程度、「かさ上げ」されたと分析されている。
わずかな変化だと思うかもしれないが、今回のような異常気象の気圧パターンがたまたま生じたときに、この地球温暖化によるかさ上げが「ふつうの異常気象」を「記録的な異常気象」に押し上げる、とみることができる。
そして、地球温暖化を止めない限り、このかさ上げの大きさが1度から2度へ、さらに放っておけば、今世紀末にかけて3度、4度と大きくなっていくのである。それに伴って、長期的傾向として豪雨も猛暑もさらに頻度が増え続ける、あるいは降水量や最高気温の記録を更新し続けることが予想される。
この地球温暖化を止めるため、2015年に採択された「パリ協定」で、国際社会は今世紀後半の「脱炭素」、つまり人類が化石燃料の使用から脱却することを志した。
以前から、地球温暖化リスクの深刻さへの認識が他国に比べて低いことが指摘されている日本では、これまで「脱炭素」の必要性を理解し、納得している人もおそらくあまり多くなかっただろう。
しかし、生命や生活基盤を脅かす気象災害が地球温暖化によって日本でも増え始めているのだから、必然的に、災害の拡大を抑制するために地球温暖化を止めること、すなわち「脱炭素」を目指すことが、日本人にとっても死活問題になってきたといえる。
8月3日に開かれた、地球温暖化対策の長期戦略を検討する政府の有識者会議の冒頭で、安倍首相は「温暖化対策はもはや企業にとってコストではなく、競争力の源泉だ」と述べた。
この発言のとおりに、政府と企業の取り組みに本腰が入ることを願いたい。そして、今年の豪雨と猛暑をきっかけに、日本の多くの人々に「脱炭素」の必要性を理解してほしいと願っている。
それは、人々の理解や実感の欠如が、日本が「脱炭素」に向かう競争を世界と戦う上での大きなハンディキャップになってしまうことを懸念するからだ。