地方自治守り闘った 視標「翁長沖縄県知事死去」
米軍普天間飛行場の移設問題で政府と対立する姿から、反基地のイメージが付いているが、翁長氏の主張は「新たな基地は沖縄に要らない」である。さらなる基地負担となる辺野古への基地建設を拒絶しているだけだ。沖縄を一つにまとめるためには、すべての米軍基地を否定するわけにはいかない。
また、基地問題の陰に隠れがちだが、子どもの貧困対策にも力を注いだ。沖縄の子どもたちの3割が経済的困窮状態にあるという調査結果が出されると、それから1年もたたないうちに県庁に「子ども未来政策課」を発足させている。まさに沖縄保守の面目躍如である。
このように、住民の生活に大きな影響を及ぼす施策を政府が強引に推し進めるような状況は、沖縄以外でも生じている。原発の新設や再稼働の問題を抱えている地域は言うに及ばず、政府の方針にそぐわない地方自治体に対する政府の姿勢は、年々厳しいものになってきている。
だからこそ、翁長氏による政府へのあらがいを、無駄な抵抗だったと思わないでほしい。県民を守るためには、たとえ政府であろうとも闘うことを選択する。その姿を見せ続けることが、地方自治を守る力となる。
9月中には沖縄県知事選が行われる。辺野古移設の是非が大きな争点になることは間違いない。だが知事選は本来、自分たちを守ってくれる、幸せをもたらしてくれる知事を県民が選出するために実施されるものである。基地問題や、政府との関係性の在り方だけでなく、自分たちの未来を託すことのできる知事を選ぶ機会となってほしい。
そして政府は、どのような結果が出ようとも、沖縄の選択を尊重してもらいたい。翁長氏が安倍晋三政権に厳しい態度で挑んでいたのは、選挙で示された沖縄の民意が尊重されていないと感じていたからだ。
繰り返して言うが、政府の意向に沿う首長を投票で選んだ自治体だけを厚遇するような姿勢は、地方自治の本旨をゆがめることになる。
翁長氏は著書「戦う民意」でこう述べている。「『辺野古に新基地はつくらせない』という主張を象徴として、政治の大きな変革の原点をつくっていくことが沖縄を変え、日本を変えることにつながり、真の民主主義を確立することにつながるはずです」
沖縄だけでなく、日本の、そして民主主義の未来をも見据えた、偉大な政治家だった。