怪獣愛あふれるヒーローアニメ 雨宮哲監督×片桐仁が語る「グリッドマン ユニバース」

<※後段に対談たっぷりあります>

特撮作品をリメークした人気アニメシリーズの劇場版「グリッドマン ユニバース」が公開中。テレビシリーズから同作を手がける雨宮哲監督と、作中に登場する怪獣のファンという俳優の片桐仁が魅力を語った。
テレビシリーズは2018年と21年に放送。約30年前の特撮「電光超人グリッドマン」を新たな解釈でアニメ化した。舞台設定や登場人物を一新する一方で、特撮の着ぐるみをほうふつとさせる怪獣が次々に登場して話題を集めた。「主役はヒーローであるグリッドマンだけど、怪獣たちも同じくらい輝かせたいと思っていた」と雨宮監督。
怪獣のデザインはウルトラシリーズなどに携わったスタッフが担当しているという。片桐のお気に入りはテレビシリーズ第1作に登場した「ナナシB」だ。「昔の『ウルトラセブン』に出てきたメトロン星人みたいな、かわいらしさとおかしみのあるデザイン。なのに戦うとすごく強いところもいい」と力説した。

劇場版ではテレビシリーズ2作品の主要キャラクターが集まり、再び現れた怪獣に立ち向かう。片桐は「敵も味方も盛りだくさんの、お祭り騒ぎみたいな作品。もう大変です」と、すっかり圧倒された様子だった。
主人公の高校生たちが繰り広げる甘酸っぱい青春ストーリーも見どころの一つ。雨宮監督は「特撮ファンから原作を知らない若いアニメファンまで、幅広い世代に楽しんでもらえるとうれしい」とアピールした。

ここからはテレビシリーズを含めた作品の魅力や、雨宮監督と片桐さんの怪獣愛が伝わる対談の様子をお送りします。
目次
※「電光超人グリッドマン」 1993~94年に放送された特撮番組。主人公の中学生・翔直人がひょんなことから実体を持たないヒーロー・グリッドマンと合体。街で暴れる怪獣や、それを陰で操っていたクラスメートの藤堂武史と対立する。グリッドマンのサポート役として「ゴッドゼノン」「ダイナドラゴン」という合体ロボットも登場する。

※「SSSS.GRIDMAN」 「電光超人グリッドマン」を原作として作られ、2018年に放送されたテレビアニメ。主人公の高校生・響裕太が古いパソコンの画面に現れたヒーロー・グリッドマンと合体。街で暴れる怪獣や、それを陰で操っていたクラスメートの新条アカネと対立する。物語終盤で実は舞台となっている街そのものがアカネの妄想で作られた世界だったことが明らかになり、反響を呼んだ。

※「SSSS.DYNAZENON」 「電光超人グリッドマン」を原作として作られ、21年に放送されたテレビアニメ。街で暴れる怪獣と戦う使命を帯びた主人公・ガウマが、高校生の麻中蓬らと共に合体ロボット「ダイナゼノン」に乗り込み、怪獣たちを陰で操る謎の集団「怪獣優生思想」と対立する。「SSSS.GRIDMAN」と直接のつながりはないが、登場人物が一部重なっている。
【①子どもがハマった「SSSS.GRIDMAN」】
▼記者 まずは片桐さん、映画をご覧になった感想をお願いします。

★片桐 たいへん(笑)。もうお祭り騒ぎって感じで。
▼記者 特撮の「電光超人グリッドマン」は見ていたんですか?
★片桐 いえ。放送当時はもう大学生だったので、全く知りませんでした。
▼記者 では、テレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」を見たきっかけは?
★片桐 子どもがハマったんですよ。うちの息子たちは今、中学生と小学校低学年で、意外と特撮もガンダムも見たり見なかったりなんですが「SSSS.GRIDMAN」は楽しく見ていて。「怪獣」の持つ特撮っぽさと、今はやりのVR(仮想現実)世界が融合した感じが新鮮で良かったのかもしれないです。

▼記者 雨宮監督におうかがいします。元々はウルトラシリーズをアニメ化したいという企画だったんですよね。
■雨宮監督 そうですね。でも、それは別のところで進行してたので、別作品を提案されて。
★片桐 それで「グリッドマン」に。
■雨宮監督 僕の世代は小さい頃、ウルトラマンがお休み期間だったんですよ。小学生の頃に見ていたのはむしろ「グリッドマン」の方だったので、思い入れのある作品だし、やってみたいと思いました。

▼記者 当時の視聴者として「電光超人グリッドマン」の魅力はどんなところだと思いますか?
■雨宮監督 「ウルトラマン」みたいにシリアスすぎないんですよ。
★片桐 子どもが主役ですもんね。
■雨宮監督 そうですね。大人が主人公じゃないというのはアニメでも引き継いだところです。
★片桐 当時からロボットの合体とかもあったんですか?
■雨宮監督 してました。そう考えると、企画的にそもそも実写よりアニメが向いてた作品なのかもしれません。
【②「作り物」の世界をアニメに】 目次へ戻る
▼記者 「SSSS.GRIDMAN」は放送中からアニメファンの間で大きな話題を集めました。片桐さんが心を引かれたのはどんなところでしょうか?
★片桐 ヒロインの一人、新条アカネがこっそり怪獣のフィギュアを作っていて、それが現実で暴れ回るというのがいいですね。「ごっこ遊び」の経験は誰しもあって、頭の中でいろいろ空想を広げて楽しむこともある。その身近な遊びがこんな大ごとになっていくなんて! というのはアニメ、特撮ならではの展開です。
実は作中で描かれていた街は全部アカネの妄想で作られた世界なんですけど、最後はアニメを飛び出して実写の映像を使うことで、その辺りを分かりやすく説明してくれたのも面白かったです。アカネが実際に学生だから、戦闘シーンはハチャメチャなのに、学校パートは妙にリアルだったり。あの辺は僕ら、大人になると取り戻せない世界ですから、見ていてぐっとくるものがあります。

▼ 記者 片桐さんをはじめ、原作を知らずに見て世界観に引き込まれたファンも多かったと聞きます。
■雨宮監督 原作を知らないアニメファンが見て楽しめるようにしたいという思いはありました。そのうち何人かが特撮にも興味を持って見てくれたらうれしいなと。
★片桐 うちの子、見ましたよ。びっくりしてました。
■雨宮監督 着ぐるみですからね。
▼記者 その「着ぐるみならでは」「特撮ならでは」の映像表現はアニメにも一部、引き継がれています。戦闘シーンで怪獣のぶつかったビルが崩れるのではなく、形を保ったまま丸ごと吹っ飛んだり。

★片桐 そうか、あれは特撮の動きを再現してるんですね。
■雨宮監督 着ぐるみとミニチュアを使った撮影だと技術的にどうしてもそうなるんですけど、実はアニメでも3DCGを使うと似たような現象が起こるので、そこをリンクさせてみようと思いました。「作り物」という作品のテーマとも親和性があります。
▼記者 「世界そのものが作り物だった」というオチに向けての壮大な伏線になっていたんですね。
■雨宮監督 怪獣の場合も、首の動きをわざと制限して「着ぐるみの中に人が入った時の動き」を再現してます。あえてソフビ(ソフトビニール素材のフィギュア)の派手な色味を使ってみたり。
【③片桐お気に入りの怪獣「ナナシB」】 目次へ戻る
▼記者 いろいろな怪獣が登場しますが、片桐さんのお気に入りは?
★片桐 「SSSS.GRIDMAN」に出てくる「ナナシB」ですね。好きすぎてこんなファンアートを作ってしまいました。ナナシBの体をギョーザに見立てた「ナナシ餃子」です。

■雨宮監督 うわあ。ありがとうございます。こんなおいしそうに。
★片桐 実は後ろにスイッチがついてて、目が光るんですよ。
■雨宮監督 ほんとだ! 目が光るのはウルトラ怪獣の伝統なんで、とてもいいです。
▼記者 ナナシのどんなところが好きなんでしょうか。
★片桐 ぱっと見がギョーザなとこです(笑)。後は外側(ナナシA)と内側(ナナシB)があって、ぶよっとした皮を脱いだら強い中身が出てくるあたりもギョーザっぽいなと。
■雨宮監督 すばらしいです。作中で怪獣を操っていたアカネも造形物をこしらえるキャラなので、片桐さんのような手を動かす人にとって刺激になったのはすごくうれしいです。

★片桐 ナナシ以外にもたくさん怪獣が出てくるけど、みんなデザイナーさんが違うんですよね。
■雨宮監督 基本は円谷(プロ)さんの人脈で、特撮シリーズに関わったデザイナーさん何人かにお願いしました。あえてデザインをバラバラにすることで、造形師としてのアカネちゃんの多彩さを表現しています。
★片桐 知ってる怪獣の広さ、引き出しの多さですね。
■雨宮監督 その中でもナナシBは視聴者人気が高くて、イベント用に着ぐるみがあるくらいなんです。かわいらしいイメージがあるんでしょうか。
★片桐 ちょっとユーモラスというか、「ウルトラセブン」のメトロン星人なんかに通じるものがありますね。「ウルトラセブン」の中では合体ロボットの「キングジョー」も好きなんで、(キングジョーを基にデザインされた「SSSS.GRIDMAN」の怪獣)「メカグールギラス」でも何か作りたかったんですけど、デザインが複雑すぎて断念しました。

【④造形物としての怪獣の魅力】 目次へ戻る
▼記者 片桐さんの「怪獣遍歴」を教えてください。
★片桐 小さい頃からウルトラ怪獣のフィギュアは持ってて、怪獣ごっこはしてたんですけど、ビデオもない時代なので、作品をちゃんと見てたわけじゃないんです。夕方の再放送で断片的に知ってる感じで。高校ぐらいでソフビのフィギュアやガレージキットのすごくリアルなやつが出始めて、改めて「怪獣いいな」という感覚になったんですけど、その時もまだ元ネタは知らないんですよ。だいぶたってからDVDとかで見るんですけど。
▼記者 純粋に造形物としての怪獣に引かれたんですね。
★片桐 ロボットとは違う、生々しい感じが好きなのかな。僕「いろんなものに粘土を盛る」という連載をやってるんですけど、すぐ怪獣になっちゃうんです。顔を付けて変なとこに手足を付けたらすぐ怪獣になる。もっと骨格とか考えたら生き物っぽくなるのかもしれないけど、そこからズレたところにかわいさ、面白さがあるんだと思います。合体したり、逆に何かパーツを抜いたり、そういう大喜利的な楽しみ方ができるので、無限だなと思います。
▼記者 同じ合体するのでも、ロボットだと何か違うんでしょうか。
★片桐 単純に金属の平面を粘土で作るのが大変なんで。さっき(ロボットの)キングジョーが好きって言ったんですけど、あれは小学校の時に懸賞でちっちゃい金属のフィギュアが当たったのが大きいんだと思います。ただ、作るとなると難しいから、キングジョーのフィギュアを作る時には縄文の「みみずく土偶」と合体させて「キングジョーモン」というキャラクターにしました。

■雨宮監督 おお、本当に出土したかのような。ちゃんと背中に筒もある…いいですね。
▼記者 監督はアニメのキャラクターが実体になったものを見たり、触れたりすることで刺激を受けますか。
■雨宮監督 ソフビは結構、作業中に触るんですよ。触ってると幸せで。
▼記者 作画の参考にするわけではなく?
■雨宮監督 ただ触ります。たばこを吸わないんで、その代わりの息抜きみたいな感じです。

▼記者 監督の怪獣愛がよく伝わりました。アニメでも怪獣の強さが際立つシーンが多いですよね。
■雨宮監督 主役はもちろんヒーローであるグリッドマンなんですけど、怪獣があってこそのグリッドマンなので、同じくらい輝いてほしいですね。
【⑤とにかく合流すれば勝ち!】 目次へ戻る
▼記者 映画の見どころをお願いします。
■雨宮監督 テレビシリーズのファンにはぜひ見ていただきたいし、映画から入ってもいいと思います。
★片桐 これ、映画から見た人すごいですよ。てんこ盛りですから。

▼記者 2作目の「SSSS.DYNAZENON」が決まった時には、既に今回みたいなオールスター作品の構想はあったんですか?
■雨宮監督 途中くらいかな。だから「SSSS.GRIDMAN」のキャラは出さないというのは決めてました。
▼記者 テレビシリーズの「SSSS.GRIDMAN」と「SSSS.DYNAZENON」は、多少の接点はありつつも基本的には別の作品として展開していたので、映画でどうやって一つにまとめるんだろうと思ってたら、何かすごく…
■雨宮監督 強めのホッチキスを使いました(笑)。
★片桐 そのたとえもよく分からないですけどね(笑)。

■雨宮監督 2作品のキャラクターが合流するための理屈とかは一応あるんですけど、細かいことは置いといて、とにかく合流して映画にしてしまえば勝ちだろうと。
★片桐 登場人物以外にもロボットやら怪獣やらが次々に出てきて、とにかく戦いが速すぎる! もう何が何やらでした。
■雨宮監督 良かったです。
★片桐 良かったんですか?
■雨宮監督 大盛りにしておけば細かいアラが気にならないと思ったので。計算通り(笑)。
★片桐 戦いはすごいことになってますけど、一方で裕太たちが繰り広げる甘酸っぱい青春ストーリーもいいですね。そっちは地に足がついてますから、初めての人でも楽しめると思います。
■雨宮監督 片桐さんのお子さんが見てくださったというのがすごく励みになりました。僕ら世代の特撮ファンも、そうでない若い方も、幅広い年齢の方に見てもらえたらうれしいです。

(取材・文=共同通信 高田麻美、撮影=徳丸篤史)