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沖縄と韓国を結んだ師弟の絆 競技不毛の地から二人三脚で五輪へ

2021.8.2 12:30 共同通信
アジア選手権の会場で新城武さん(右)とともにポーズをとる朴喜俊選手=2019年7月、タシケント
アジア選手権の会場で新城武さん(右)とともにポーズをとる朴喜俊選手=2019年7月、タシケント
 日本生まれの武道、空手は韓国ではなじみが薄い。恵まれぬ練習環境の中、空手発祥の地、沖縄のコーチに鍛えられた男子形で27歳の朴喜俊(パク・ヒジュン)がこの五輪新競技に出場する。韓国メディアの取材に「当然、やるからには金メダルです」と志を高く掲げる。
 ▽中傷の書き込み
 朴は今年6月、パリで開かれた五輪最終予選で3位に入り、出場権を得た。アジア連盟の関係者は「朝鮮半島から初めての空手オリンピアン」と、競技の国際的な広がりを喜んだ。一方で、国内で空手が置かれた状況を知る韓国の関係者は、同選手の出場を「奇跡だ」と表現した。
 韓国で空手の存在は極めてマイナーだ。学校、社会人のチームはゼロ。全国体育大会(日本の国体に相当)でも実施されていない。関係者の話では、空手など複数の武術を教える教室は全国に30カ所程度あるものの、空手専門の道場はほとんどないという。
 日本の伝統武道であるため短絡的に反日感情と結びつけられたのか、朴が誹謗(ひぼう)中傷を受けたこともあった。韓国の中央日報によると、朴には「ネットに『親日派か』『なぜテコンドーの代わりに空手をやるのか』などと書き込まれて、家族が心を痛めた」とのつらい記憶がある
 ▽真摯
 そんな活動環境の中で、身長約160センチと小柄な朴の素質を見抜いたのは、沖縄県沖縄市で道場「拳龍同志会」の館長を務める新城武(しんじょう・たける)さん(34)だ。大商大を出た後、「海外で指導の勉強をしたい」と大学OBの紹介を受け、2018年の2月に韓国代表コーチに就いた。
 中学1年で空手の道に入った朴は今や空手、テコンドー、剣道いずれも3段の武道家。新城さんは何事にも真摯(しんし)な朴をひと目見て「学ぶ姿勢が素直だ。筋肉の質が高くパワーがある」とすぐにピンときた。日本語、韓国語、英語を織り交ぜた指導がスタート。18年夏のジャカルタ・アジア大会で銅メダルと急速に力をつけた。
 新城さんに巡り合うまでは、本格的な指導者はいなかった。一般にも空手は国技のテコンドーと違い「(朝鮮半島出身のプロレスラー)力道山の空手チョップを連想する」(60代男性)ぐらいの認知度しかない。極真空手の創始者、大山倍達氏は朝鮮半島出身とされるが、日韓の歴史的経緯もあってか空手は韓国に根付いていない。
 ▽情の厚さ
 沖縄と韓国の気候はそれぞれ海洋性、大陸性と全く異質だ。しかし、文化的に似通った点も見られる。それぞれの伝統舞踊の技法には類似性があるといわれる。固有の格闘技である沖縄角力(すもう)とシルム(韓国相撲)はともに右四つに組んでから試合を始め、3本勝負を争う。
 そして、師弟ががっちり心を通わせたのは沖縄の人と韓国人に共通する「情の厚さ」だった。新城さんは「僕が外国人なので、ご飯を食べに行きませんかとか、買い物に行きませんかとかすごく気を使ってくれた」。師匠と真面目で優しい弟子の間には自然と固い絆ができた。
 ▽競技普及の夢
 新型コロナウイルス禍で五輪が1年延期となり、代表選手の練習拠点も昨年3月末に一時閉鎖。新城さんも帰国せざるを得なかった。自由に渡航することもできなくなり、連盟との契約も終えたが、LINE(ライン)の動画を使って引き続き演武の動作をチェック。アドバイスを送り続けた。
 空手は次回パリ五輪で実施競技から除外される。朴は「空手が行われる最後の五輪になるかもしれない。それだけに責任も感じている」と言う。将来は高校数学教師の父親のように教員になるのが目標だ。沖縄で稽古を積み「韓国で体育の教師になって、空手のホープを育てたい」と競技普及の夢を語る。
 新城さんは「勝ち負けにこだわらず、教わったものを全力でパフォーマンスできれば私は一番うれしいです」とまな弟子への言葉を贈った。韓国と沖縄の武道家が二人三脚で磨き上げた演武は、日本武道館の大舞台で披露される。(共同通信・豊田正彦)