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日韓決勝で見せた勝者への敬意 小平―李の再現、韓国柔道の趙

2021.7.30 13:10 共同通信
男子100㌔級決勝を終え、健闘をたたえ合うウルフ・アロン(左)と趙グハム=日本武道館
男子100㌔級決勝を終え、健闘をたたえ合うウルフ・アロン(左)と趙グハム=日本武道館
 3年前の平昌冬季五輪で見たスピードスケート、小平奈緒と韓国の李相花(イ・サンファ)の感動シーンの記憶と重なった。柔道男子100級決勝でウルフ・アロンが勝ち名乗りを受けた直後、韓国の趙(チョ)グハムはためらいもせず右手で勝者の左腕を高々と掲げて祝福した。柔道着の背中のゼッケンには「JPN」(日本)と「KOR」(韓国)の大きな字。史上最悪と言われる日韓関係をよそに、この一瞬、スポーツは政治の壁をはるかに乗り越えた。
 ▽差しあげた覇者の腕
 趙が左の一本背負い投げで一発を狙う。ウルフは巧みにそれをさばく。勝負は延長に。ウルフはスタミナでも上回り9分35秒、左大内刈りで一本勝ちした。趙は畳の上で大の字になり空(くう)を仰いだ。両者が一礼。敗者は覇者の頭にそっと左手を当て、腕を差しあげた。同時に「彼が王者だ」と言わんばかり、左の人さし指をウルフに向けた。
 柔道では今大会初の「日韓戦」。日本が朝鮮半島を植民地とした歴史的経緯もあって、かつては全競技にわたってこのカードの名を呼ぶときは重苦しい響きがあった。その対決を現場で何度も取材した身には、とりわけ韓国選手の全身からほとばしるような「魂の叫び」をいつも感じ取っていた。
 ▽潔く
 決勝の畳を下りた趙は韓国メディアの取材に「国家代表の生活を送った10年間で最強の相手だった。何度かチャンスはあったが…。(ウルフは)自分をよく研究していた。自信はあったけど、実力が足らなかった」と潔く負けを認めた。
 平昌五輪で優勝した小平は敗れた李の肩を抱き韓国語で「チャレッソ(よくやったね)」と優しく声をかけた。この日の趙は「決勝で日本選手と当たれば大きな意味がある」と日本へのライバル意識は確かにあった。それでも試合が終わると気持ちを切り替え、勝者への敬意を態度で示した。
 ▽未来へ
 韓国柔道は前回リオデジャネイロ大会に続いて、再び金メダルゼロのピンチ。韓国勢で今大会初めて決勝に進んだ趙に、大きな期待がかけられた。名前のグハムは韓国語で「救う」という意味だ。教会の牧師が「国を救え」という意味を込めてつけたという。
 趙自身も大会前に「名前の意味通り、韓国柔道を救いたい」と覚悟を口にしていた。重圧の中で戦った決勝で、その決意は天に通じなかった。それでも勝負が着いた後は、スポーツ選手らしい姿が強く印象に残った。
 表彰式のテレビ中継が終わった後、韓国柔道界の友人に「趙選手の態度こそスポーツ選手の真の姿だと感じました」と通信アプリでメッセージを送った。返信には「日本の選手がアジア柔道のプライドを打ち立ててくれています」と記されていた。日韓のスポーツが心を通わせて未来に進む。自分が抱き続けてきた、そんな理想像の実現に少し自信が持てた。(共同通信・豊田正彦)