がん教育、講師不足が課題 患者団体自ら養成へ オンライン授業も視野

▽学ぶべきテーマ
「がんになったとき『もう終わった。親より先に死ぬのか』と思いました」。茨城がん体験談スピーカーバンク代表の志賀俊彦さん(44)は9月、中学生約110人に語り掛けた。
「でもへこんでばかりいられない。『死にたくない、ではどうすればいいのか』と思い、自分の体に何が起きているのか調べ始めました」志賀さんは25歳で進行した肝臓がんと診断された。手術や抗がん剤治療で一度は良くなったが、再発。授業では再発のショックや「一度きりの人生なので、やりたいことをやろうと決心した」ことなど率直な気持ちを笑顔で話した。
がんの経験者や家族、遺族が自分の経験や気持ちを伝えることは簡単ではない。どんな病気なのか。何がつらかったのか。いずれも、自身の体験が全ての患者や家族に当てはまるわけではない。

全がん連のネット講座(eラーニング)では、がんに関する統計や、がんができる仕組み、基本的な治療の流れ、外部講師としてがん教育に求められるポイントなど八つのテーマで学ぶ。
▽マッチング
例えば、感情の赴くままに話すと、誤った情報を与えたり、子どもを不安にしたりする恐れがある。酒やたばこはがんの原因になり得るとしても、それだけが原因だと思い込ませてはいけない。
子ども自身や家族が治療中だったり、身近な人をがんで亡くしたりした場合もある。授業中に生徒が動揺した際の対応は、あらかじめ教員と打ち合わせておく。
こうした講師としての知識を得て、テストに合格した場合、希望すれば修了者として全がん連のサイトで公表する。
患者らはがん教育に役立ちたいと思っても方法を知らず、逆に学校側は誰に依頼すればいいのか分からない。リスト公表は、依頼したい学校と講師のマッチングを図る。これまでに計約300人の患者や家族、遺族が登録されている。

全がん連事務局長で乳がん経験者の三好綾さん(45)は地元鹿児島県で「いのちの授業」を続け、内容や教材を改善する勉強会を開いてきた。
他の患者会から相談を受けるうち「講師を目指す人が学べる場が必要だ」と感じて講座を企画。国立がん研究センターや教育の専門家らと講師として知っておくべき事柄を整理し、子どもに教える際に配慮するべきことは冊子にまとめた。全がん連によるネット講座は2022年末まで無料で続ける予定だ。
▽コロナ下の再開
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で春以降、がん経験者による授業は延期やキャンセルが相次いだ。
ようやく再開の動きも出てきたが、三好さんは「対面なら、感染症対策が必須。オンラインなら、コミュニケーションに限界があるが、離島など訪問しにくい地域でも授業ができる」と話す。
新しい学習指導要領に基づき、2021年度から中学校でがん教育が全面的に実施される予定。
がん教育に詳しい日本女子体育大の助友裕子教授は「全ての小中学生に1人1台のパソコンを整備する『GIGAスクール構想』が進んでいるので、学校も講師もオンラインの授業を積極的に検討してほしい」と話した。(共同=山岡文子)