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一度取り消すべき、東京五輪の代表権 【為末大の視点】

2020.3.30 19:00 為末 大
マラソンの東京五輪女子代表に決定し、記者会見でポーズをとる(左から)鈴木亜由子、前田穂南、一山麻緒=3月12日、福島県郡山
マラソンの東京五輪女子代表に決定し、記者会見でポーズをとる(左から)鈴木亜由子、前田穂南、一山麻緒=3月12日、福島県郡山

 

 新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪が延期された。それに伴い、既に五輪の代表に内定した選手の権利をどうするのか議論が交わされている。私自身ずっとこのことについて考えてきた。現在のところ、スポーツ界はこの代表権を維持すべきだという返答が大勢だ。今年の東京五輪に向けて選手が努力してきたこと、そしてその結果、代表に選ばれたことは間違いない。それでも、私は一度全ての競技の代表権を取り消すべきだと考えている。

 代表権をどうするのかという問いは、代表とは何かについて考える軸が必要だ。私の回答は、その時点で考えられうる最高の選手が代表だと思っている。確かに今年の東京五輪で選手たちには代表権が渡されたが、それは来年も最高であるということを保証したものではない。

 アスリートのピークはさほど長くない。しかも今はあらゆる競技で将来有望な若い選手が台頭している。来年の同じ時期に、今回の代表選手たちが最高の選手とは限らない。しかもこのような事態だから、これから1年で何が起こってもおかしくない。もし、このまま代表権を維持するなら、本当に来年の時点で最高の選手が出場しているのか、という疑いの目で観客が選手を見てしまう可能性が残る。

 確かに今年の代表選手たちが来年も最高の選手であるという可能性は低くないだろう。それにも関わらず、なぜ再選考が必要なのか。それは代表という役割の権威を守るためであり、代表選手たちに吹っ切ってもらうためだ。選手を選ぶというプロセスを踏むことで、仮に五輪で成績が出なくてもあいつが負けたんならしょうがないと、誰もが納得できるのだ。もちろんこれが現代表選手たちにどれだけの犠牲を伴うことなのか、私もアスリートの端くれだったから痛いほど分かっている。それでも今回、代表に内定している選手たちには2021年の選考会で最高の選手であるということを証明してほしい。

 選考のプロセスで一度代表に内定したはずの選手が落選することも考えられる。だから、東京五輪には、2020年と2021年の2種類の代表が生まれることになるだろう。私たちは代表という役割だけではなく、そこまで払ってきた犠牲に尊敬の念を抱く。それは仮に五輪に出場することがかなわなくても決して無くならないものだろう。(元陸上選手)=第32回

東京五輪・パラリンピックの延期が決まり、現在日時の表示に変更されたJR東京駅前のカウントダウン時計=3月25日午後(魚眼レンズ使用)
東京五輪・パラリンピックの延期が決まり、現在日時の表示に変更されたJR東京駅前のカウントダウン時計=3月25日午後(魚眼レンズ使用)

 

為末 大

名前 :為末 大

プロフィール:ためすえ・だい 1978年、広島市生まれ。法政大卒。陸上男子400メートル障害で2001年と05年の世界選手権で銅メダルを獲得。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。著書に「諦める力」「逃げる自由」など。