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地球に貢献、電力で  若者起業へ行政後押し オランダ

2020.2.10 16:21 共同通信

 アムステルダム中心部のオフィス。2階のフロアには、ラフなスタイルの若い男女が打ち合わせをしたり、パソコンに向かったりしていた。
 風力や太陽光発電などで環境に優しい再生可能エネルギーを消費者に届ける「ファンデブロン」。創業者で経営を担うマティス・ヒフラー(34)が、笑顔で迎えてくれた。
 本人も、カラーシャツにジーンズだ。「発電所や送電線など設備を持たずに、供給者とお客さんを結びつけるのが、僕たちの役割です」

 ▽初めて黒字に
 会社は2014年、28歳の時に仲間と3人で立ち上げた。社員は160人で、電力を300の供給者から20万の家庭に届けている。19年度に初めて黒字になる見通しだ。
 大学で法律の勉強をしていたが、技術設計に変えた。1年間、企業に勤めてお金をため、起業に踏み切った。
 「人生には目的が必要。お金を稼ぐと同時に、地球に貢献できる事業をしたかった」
 「僕だけではない。同じ世代の人だったら皆、そう考えているだろう。この点が一番重要なんだ」
 個人が自宅で発電した電力をインターネットで買い手を見つけて売ることを考えていた。しかし、うまくいかなかった。

アムステルダム郊外の風力発電装置。ポニーがのどかに草を食べていた=19年6月(共同)
アムステルダム郊外の風力発電装置。ポニーがのどかに草を食べていた=19年6月(共同)
 

 あるとき、風力発電は、どうやって電力を供給しているのかを調べ、関心を強めた。米国で民泊を仲介する「エアビーアンドビー」が話題になっていた。「宿を仲介する仕事をエネルギーで」。家でなく風力発電で、このようなサービスを提供できないかと考えたのが始まりだ。
 他に見られないビジネスで、未知のことばかりだった。知識、技術、ノウハウを習得し、挑戦の連続。13年にベンチャーキャピタルから、日本円で2億円以上調達できたことが大きかった。
 当時の供給者は安値で大手の電力会社に電力を販売。「しかし、僕たちの仲介料は安い。供給者にとっては高く、消費者にとっては安くなった」
 アムステルダム郊外で見られる風力発電施設も、もとは電力会社に安く売っていたという。「もっと高い価格で買ってくれないかと、先方からアプローチしてきた。われわれが、救世主のようになった」
 「今は大手の電力会社がコンセプトをまねして、同じことをやっているよ」。競争が激しくなり、これ以上、安くできない価格まで下がってきているという。
 オランダでは、再生可能エネルギーを求める消費者が多い。しかし、本物かどうか、どうやってチェックするか、分かりにくい。「再生可能エネルギーであることをわれわれが証明し、納得してもらう。信頼関係が大切だ」と繰り返す。

 ▽米国に続け
 アムステルダム市で新興企業をサポートするプログラムを担当するアレクサンドラ・ベリコバ(26)によると、市は起業を促すため15年から支援策を実施してきた。
 オランダには石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェル、医療機器大手のフィリップスなど国際展開する著名企業は多い。しかし現在、世界では、ITなど米国の新興企業の躍進が目につき、米国に続こうと行政が後押ししている。
 ベリコバは「オランダ人にとって商売はDNA。起業家を助けるため、資金調達や経営のコーチ役も担います」と説明する。さらに、歴史的にオランダ人の関心が高い環境関連の事業を後押しするチームもある。

運河沿いの街角で、電気自動車に充電するファンデブロン創業者のマティス・ヒフラー=19年6月、アムステルダム(共同)
運河沿いの街角で、電気自動車に充電するファンデブロン創業者のマティス・ヒフラー=19年6月、アムステルダム(共同)
 

 ▽充電器を配備
 アムステルダム市は、排ガスによる環境汚染と地球温暖化を防ぐため、30年からディーゼル、ガソリン車の走行を禁止、電気自動車などへの転換を促す。
 市で環境対策を担当するユルン・スフターによると、電気自動車を利用しやすくするため、充電器が公の場所で約3千、自宅などではさらに約3千設置されている。
 今後は「市外から入ってくる自動車の排ガスをいかに抑えるかが課題だ」としており、入国する観光客がもたらす排ガスの制限が必要になるとの認識を示した。
 「車を充電しているところを見るかい? その電力もわれわれが供給しているんだ」。ファンデブロンのヒフラーが、電気自動車用のステーションに案内してくれた。
 「子どもが生まれたばかりで、実は昨夜はよく眠れなかったんだ」。運河沿いを5分ほど歩いた。奥さんは大手銀行に勤務、オランダでは一般的な共働きの夫婦だ。
 しばらくして、充電が終了。24ユーロ(約2800円)で、自宅だと8ユーロだとか。350キロほど、走行できるという。
 運河の船上の子どもたちから「カッコいい車だね」と声を掛けられる。「そうかい? ありがとう」。気さくに答える姿は、オランダでみられる普通の青年だった。(敬称略、文・山崎英之、写真・武隈周防)

取材後記

環境重視、国民性示す

地図
 

 オランダのシンボルの風車は、海抜以下の土地が多い同国で、数世紀にわたって水をかき出す動力として活用され、産業用のエネルギー源にもなっていた。自然の力を利用するため、風力や太陽光発電はその後継で、地球環境保護を重視するオランダの国民性を示す象徴と言えるだろう。
 石油や石炭の火力発電で出される温室効果ガスで温暖化が進めば、海面が上昇し国民生活の死活にかかわる。取材でも行政、企業、消費者の再生可能エネルギーへの思い、環境問題に向き合う意識を感じた。
 「地球は神がつくりたもうたが、オランダはオランダ人がつくった」。住民が協力して干拓事業を手掛けてきた歴史を踏まえたことわざを思い出した。

 

 

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