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第3部「平和国家、続けますか」(9) 学者版、経済的徴兵制か  タブー視薄れる軍事研究(新しい戦争③)

2018.10.30 7:07
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 大阪市立大の教授山田裕介(やまだ・ゆうすけ)(47)は、防衛省が2015(平成27)年に創設した「安全保障技術研究推進制度」に応募した一人だ。ガスマスクに使える特殊フィルター素材の研究が採択され、3年間で約6千万円の助成が決まった。

 防衛省が公募したのは軍民両用を意味する「デュアルユース」技術。山田は農薬散布や災害時など「民」に貢献する研究と捉えているが、「軍」の面でどう活用されるかは知らされない。自分の中で「直接的に人を傷つけるかどうか」を基準とし、大学もガスマスクは問題ないと判断した。

 平成の半ばになると、大学への交付金は大きく削られ、学内での研究費は教員1人に年間80万円ほど。必要な装置は数百万円以上がざらだ。スタッフ確保にも苦しみ、外部資金なしでは成り立たなかった。

 採択後、大学近くで「軍学共同研究反対」のビラが配られた。通りかかった山田は内容を見て手を引っ込めた。「心配は分からないわけではない。でも、軍事研究の定義とはそもそも何なのか」

 制度批判の論陣を張る名古屋大名誉教授の池内了(いけうち・さとる)(73)は「苦しむ研究者を札束で囲う学者版の経済的徴兵制だ」と指摘する。科学者の国会と呼ばれる日本学術会議でも賛否の議論が白熱した。

2017年4月、軍事研究の対応を巡る新声明が報告された日本学術会議の総会=東京都港区
2017年4月、軍事研究の対応を巡る新声明が報告された日本学術会議の総会=東京都港区

 しかし、研究者の葛藤をよそに技術は軍事に接近していく。米国防総省は1995(平成7)年、「デュアルユース技術 最新技術を手頃な価格で入手する防衛戦略」と題する報告書を発表した。

 当時、日本の大学には軍事研究をタブー視する昭和の雰囲気が残っていた。同じころ、経団連は冷戦後の防衛装備予算の縮小が関連メーカーの経営を揺るがすとして危機感を示す。産業維持の切り札にデュアルユース推進を掲げるようになり、研究現場に詰め寄った。

 帝京大名誉教授の志方俊之(しかた・としゆき)(82)は、民間技術が発達し、軍事技術との区別が難しくなった点に着目する。

 03(平成15)年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は通信途絶などの苦難の末に帰還した。日本人を感動させたが、海外の見方は異なるものだった。「大気圏の再突入技術を完成させたのか」。元自衛隊幹部の志方に研究者からメールが相次ぐ。軌道を計算し目標地点にカプセルを着地させる技術は、大陸間弾道ミサイル能力の核心部分と受け止められた。

 防衛省の制度に応募した研究者は「すべての科学技術はデュアルユース。軍事の側面だけを見て放棄するなら、何もできない。技術を使う側の問題だ」と口々に語る。「デュアルユースという曖昧な言葉が、心理的なハードルを下げた」と指摘する専門家もいる。

 千葉工大常任理事でロボット工学者の古田貴之(ふるた・たかゆき)(50)は制度に応募したが審査途中で撤回した。防衛省の思惑を感じ、技術がどう使われるか責任が持てないと考えたからだ。「ただ、こんな考えを持つ変わり者の研究者はほとんどいなくなりましたけどね」。寂しそうに笑った。(敬称略、年齢・肩書は新聞掲載当時)

 日本学術会議の声明 1950(昭和25)年に初めて戦争目的の科学研究をしないと決意を表明。防衛省の公募制度創設で改めて議論され、2017(平成29)年、「制度は装備開発につなげる明確な目的がある」と問題点を指摘した。

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