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第6部「共鳴」(6) 「失った時間」を武器に 部屋の写真募り、可視化

2018.6.17 13:00
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 2010年の「海の日」を境に、全く外に出ない生活を送っていた現代美術家渡辺篤(わたなべあつし)(39)は、年末ごろに動画配信サービスの書き込みを偶然目にして、ひきこもりだと自覚した。


 目の前には「捨ててしまった」数カ月間があった。社会復帰しても、できることは創作しかないが、自立は簡単ではない。就職するにしても履歴書の空白をどう説明するのか。諦めと焦りがごちゃ交ぜとなり、襲った。


 「ドロップアウトしちゃおう」。死なない程度に生きることにした。命を維持するためだけに食べ物を口にし、ペットボトルに用を足すこともあった。心のどこかに、こんな思いもあった。「どうせ地獄なら、自分でつくりたい」。最後のプライドだった。


  ×  ×  ×


 母親は1回だけ「助けたい」と部屋の外から声を掛けてきた。だが何とかしようという気配は感じられない。見放された気がして、怒りの矛先は家族に向かった。


 「こうやって開けるんだよ!」。ある時、居間の扉を蹴破った。警察が駆け付けるほどだったが、われに返り、気が付いた。母親はひきこもりに関する本を読み、息子に何かあったらすぐに対応できるように夜も居間で寝ていた。憔悴(しょうすい)し切っていた。


 「お父さんが強制的に入院させようとしている」。11年2月ごろ、母親が伝えてきた。自分でひきこもるという主体性が奪われそうになった時、部屋を出ると決めた。


 ひげと髪は伸び放題で青白い顔。その姿をカメラに収めた。


 「失ったと思った時間を武器に変えたかった。制作のための役作りだったと思えばいい」。セルフポートレートは最初の作品になった。


  ×  ×  ×


 14年に開いた個展では、ブログを通じてひきこもりの人の部屋の写真を募り、60枚ほどが集まった。敷きっ放しの布団、積み上がったDVD、無造作に置かれた本や服。その一方で整然とした部屋もある。外から想像するしかなかった世界を可視化した展示は、話題を呼んだ。


 「自暴自棄的に閉じられていた状況の意味を、ひっくり返す」。人の目に触れないようにしてきた時間や空間を、価値のあるものに転換させられるという思いがあった。(敬称略)

アーティストとして生きるため「失った時間を武器に変える」と決心した渡辺篤は、部屋を出た日の自らの姿をカメラに収めた(セルフポートレート「ひきこもりを終えた日」より©渡辺篤)(敬称略)
アーティストとして生きるため「失った時間を武器に変える」と決心した渡辺篤は、部屋を出た日の自らの姿をカメラに収めた(セルフポートレート「ひきこもりを終えた日」より©渡辺篤)(敬称略)

 

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