メニュー 閉じる メニュー
社会

社会

ときを結ぶ

継承という言葉に象徴される年に、人が、ものが、記憶が連なるさまに目を凝らし、その声や物音に耳をそばだててみる。祖母の思いを継ぐ女性宮司、DNA鑑定で特定される戦没者、作家の精神を伝える遺族、網の目に広がる家系図を持つ潜伏キリシタン。明治、大正、昭和、平成、そして令和へ、悠久の「とき」を結ぶ旅に出る。

「ときを結ぶ」(18) 「インフラドクター」

2019.10.19 17:32 共同通信

老朽化対策に「点群」 
  データ解析で維持、管理 社会資本を次世代へ  

 東京都港区にあるレインボーブリッジの走行車線を、黄色のミニバンがゆっくりと走っている。車の屋根の上にはカメラなど、いろいろな機械が取り付けられ、車体に「道路調査」「作業中」のステッカーが。
 「カメラで撮影するほか、レーザースキャナーを使って路面や構造物、周辺の建物などとの距離を測定します」。運転していた朝日航洋計測技術部の西前知史(44)が説明する。レーザー光は全方位に1秒当たり最大200万発を照射、データを集めて処理した「点群(てんぐん)」で、首都高速道路の維持管理に活用する。次世代に向けた新しい老朽化対策が始まっている。

カメラやレーザースキャナーなどさまざまな機械が取り付けられたミニバンが首都高速を走る。データを集め道路の維持管理に活用する=東京都港区のレインボーブリッジ
カメラやレーザースキャナーなどさまざまな機械が取り付けられたミニバンが首都高速を走る。データを集め道路の維持管理に活用する=東京都港区のレインボーブリッジ

 ▽一括管理システム
 このシステムを開発してきた首都高技術会社の永田佳文(53)が、収集情報を処理した画像をパソコンで見せてくれた。道路も防音壁も周りのビルも、点の集まりである点群で示され、反射がない空の部分は真っ黒。まるで粗い白黒の写真を見ているようだ。
 「それぞれの点に緯度、経度、高さの3次元座標を与えています。次にデータを取れば各点の変化から、走行によって路面が掘れているかどうかがすぐに分かります」
 永田らが2年前から運用する点検や補修を簡単、低コストでできる一括管理システムだ。社会資本を守る医師のイメージを込めて「インフラドクター」と名付けた。永田が部長を務める部署の名称でもある。
 まず点群データをコンピューターが解析して補修候補を見つけ、かかる費用を計算することで舗装補修計画の作成に役立つ。さらに地図で選んだ箇所の動画や3次元点群、設計図、点検と補修の履歴もすぐに見られる。
 鉄道と交差する橋を補修する場合、これまでは鉄道会社と測量について事前協議し線路や架線との距離を実際に測り、運行に支障ないよう工事用足場の位置や高さを定めて図面を作成してきた。
 「鉄道部分の3次元点群データがあれば、位置関係がすぐに分かるので事前協議と実測は不要です。ほかにも特殊車両が走行できる十分な高さが高架下にあるのか、ドライバーの視点の高さで交通規制の標識がよく見えるのかなどもシミュレーションできます」。現場に行かないで済み、効率化できる部分は大きい。

システムを開発してきた首都高技術会社の永田佳文。パソコンの画面には「点群」で示された画像
システムを開発してきた首都高技術会社の永田佳文。パソコンの画面には「点群」で示された画像

 ▽生き残りに直結
 静岡県伊東市にある鉄道会社の伊豆急行は今年4月からインフラドクターを導入した。2018年9月の夜に3日間、調査車を実験的に台車に載せ、伊東―伊豆急下田間約46キロの点群データを収集した。
 「1、2年後に次のデータを集めれば、トンネル壁面のひび割れやゆがみなどが分かるはずです。端末を持っていけば、問題がある箇所の設計図や修繕履歴を現場で見られるのも便利ですね」。技術課長の山田岳文(50)が評価する。
 トンネル部分は、6、7人が高所作業用のモーターカーに乗って目視と打音で点検するので、一晩に1キロがやっと。利用によって労力は半分以下にできると想定した。
 「保線担当の社員は33人。新人採用に苦労していて、必要な人員を今後とも確保できるか心配です。だから安全を守りながら省力化できる点検システムは必須です」と山田。人手不足への対応が企業の生き残りを決める時代、利用は鉄道や空港にも広がっている。
 ▽崩れた安全神話
 インフラドクターの開発チームを率いた永田が、首都高に入って最初に担当したのは花形の仕事、設計だった。それが1991年に維持管理事務所に配属される。バブルの余韻があり建設ラッシュが続いていた時期だ。
 「東京・六本木交差点近くの高速道路を支える鉄製構造物の内側に入って点検を終え、歩道に出た時です。服や顔が真っ黒に汚れた私を見た女性が、手をつないだ子どもに『あんな大人になってはいけないよ』と言ったのを覚えています。偏見と分かっていますが、ショックでした」
 仕事はきつくて意欲が湧かない。肉体を使ったこんな管理方法がいつまで続くのか。そんな思いを吹き飛ばす事故が99年に起きる。首都高側溝の鉄製ふたが走行中の車を直撃、運転手が死亡したほか、案内標識の鉄柱が落下したのだ。
 「私にとってインフラの安全神話が崩壊した年です。命を守るため、できることを全てしようと決めました」。脱落を防ぐために道路付属物の台帳を整備。発明にも取り組んだ。ボルトの落下事故を防ぐために工夫を重ね、緩まないボルトも製品化、新国立競技場などに採用されている。
 この国の経済力や人口減少の状況では全てを造り替える余力はない。使えず不良資産化するのを避けて次の世代に確実に手渡すには、うまく補修しながら長期間使える仕組みが不可欠だ。
 「人間の目はどうしても見逃してしまう。単純な作業は機械がやって人が最後に判断するのがベストの組み合わせです」。永田が目指す理想の姿だ。(敬称略、文・諏訪雄三、写真・堀誠)

大更新時代に対応 

首都高速、レインボーブリッジ、伊豆急行
首都高速、レインボーブリッジ、伊豆急行

 1962年に最初の区間が開通した首都高速道路では、利用開始から40年を超える区間も多く老朽化対策が急務だった。2012年に中央自動車道笹子トンネル事故が起きたこともあり、13年に総額6300億円の大規模更新・修繕計画をまとめている。費用は料金徴収の期間を15年延長することで賄う予定だ。
 高度経済成長期を中心に整備された道路や鉄道、上下水道、空港、学校、庁舎などが大更新時代を迎えている。上手な管理や造り替えだけではなく、予算の確保が難しければ取り壊しや放棄も不可避である。地域に不可欠で維持できるインフラの量を考え、戦略的に対応しなければならない。

最新記事

関連記事 一覧へ