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社会

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扉を開けて ルポ ひきこもり

仕事や学校に行かず、社会とのつながりを持たない「ひきこもり」。長期化 高年齢化が進む中、新たな生き方の模索や支援の現場をルポする。

続編「波紋」(5) 当事者分断「その先」へ  惨事繰り返さないために

2019.8.5 18:41

 「ひきこもりを犯罪者予備軍と扱うことは偏見だという主張が発信されていますが、僕はこの主張がとても嫌いです」。川崎市の児童ら殺傷事件などを受け、当事者団体や家族会が出した声明文に対し、フェイスブック上に一見過激なメッセージを書いた人物がいる。大阪府内で生きづらさを抱えた人たちの自助会を運営する泉翔(32)だ。

 

「ひきこもりは犯罪者予備軍ではない、というメッセージだけでは問題解決にならない」と話す泉翔。「苦しい状況に追い込んだのは誰?って、誰か言ってあげて」=6月、大阪府内(敬称略)
「ひきこもりは犯罪者予備軍ではない、というメッセージだけでは問題解決にならない」と話す泉翔。「苦しい状況に追い込んだのは誰?って、誰か言ってあげて」=6月、大阪府内(敬称略)

 

 「これは批判ではないんです。誰だって犯罪と結びつけられたらつらいだろうし、動けなくなりますから。でもそれだけでは問題解決にはならない」。泉はそう断ってから、メッセージの真意を語り始めた。

  ×  ×  ×  

 大学4年の時、就職活動に行き詰まり、アパートにひきこもった。強迫性障害で汚れが気になり、体が真っ赤になるまで何時間も風呂に入り続けた。駐車場の車が自分を追い掛けてきたのではないかという妄想に取りつかれ、片っ端からナンバーをメモしたことも。ウイスキーをあおり、睡眠薬を大量に飲んだ。

 「物を壊し、人も傷つけた。腐った自分と腐った世の中を全部まとめてぶっ壊してやろうと」

 苦しみから救い出してくれたのは高校の時からの友人だった。毎週決まった曜日、時間にインターホンが鳴る。ひげもそらず、髪も伸び放題だった泉は会うのを拒んだ。それでも懲りずに、郵便受けに栄養飲料を入れたり、興味がありそうなイベントのチラシをさりげなく置いていってくれたりした。そこから社会活動に参加するようになり、今がある。

 川崎の事件で自殺した容疑者の男(51)は、同居のおじ夫婦から自立を促す手紙を渡され、「自分のことは自分でやっている。ひきこもりとは何だ」と反論。手紙を破いて食卓に置いたという。

 練馬の事件では元農林水産事務次官がひきこもりの長男を「人に危害を加えるかもしれない」と刺殺したとされる。

 「僕には奇跡的に友人がいた。でも自分を異質なものとして見る人間しか周りにいないと思ったら、(川崎の事件と)同じことをやっていたかもしれない」。そう語る泉には、事件後にひきこもり当事者らが出した声明文の「その先」が大切に思えてならない。

 「ひきこもりへの偏見は確かにある。でも『事件を起こすようなやつと一緒にするな』という当事者間の分断で終わってはだめだと思うのです」

 二度と悲惨な事件を繰り返さないために―。「長い間ひきこもって、そんだけ苦しい状況に追い込んでいたのは誰?って。ひきこもりの抱えるしんどさってこれなんやでって。誰か言ってあげてよって」(敬称略)

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