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社会

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扉を開けて ルポ ひきこもり

仕事や学校に行かず、社会とのつながりを持たない「ひきこもり」。長期化 高年齢化が進む中、新たな生き方の模索や支援の現場をルポする。

続編「波紋」(4) 「楽だから…」深まる偏見  苦しみに自己投影

2019.8.5 18:37

 ひきこもり当事者らでつくる雑誌「HIKIPOS(ひきポス)」編集長の石崎森人(36)はグループチャットに投稿された1枚の写真に目を留めた。友人が撮ったテレビのニュース画面だ。

 

ゆりなは中2の時にいじめを受け、高校、大学と感覚を殺して通った。「HIKIPOS(ひきポス)」に記事を書くことは「積み重なった自己否定を一枚一枚丁寧に読みほどく」行為だという(敬称略)
ゆりなは中2の時にいじめを受け、高校、大学と感覚を殺して通った。「HIKIPOS(ひきポス)」に記事を書くことは「積み重なった自己否定を一枚一枚丁寧に読みほどく」行為だという(敬称略)

 

 〈川崎の児童殺傷 男は「ひきこもり傾向」〉

 事件直後からうっすらと予感はあった。「社会に対する恨みが感じられた。うまく生きられていない人なんだろうなと」。いても立ってもいられずウェブに書き込んだ。

 〈報道で世間がひきこもっている方たちへ無差別殺人犯予備軍のようなイメージを持てば、まさに偏見の誕生である〉

 石崎の文章は、他の当事者団体や家族会の声明文とともにメディアに大きく取り上げられた。断続的にひきこもっているという女性からは「書いてくれてありがとう」と言われた。一方で「犯罪者に見られて当然」などという辛辣(しんらつ)な意見もあった。

 石崎はその反響に驚きつつ、「人は偏見を簡単に深められるんだと自覚するいい機会になった」と振り返る。「実態が分からないものに対しては偏見で語った方が確かに楽なんです。でも楽をして語れば誰かが傷つく。現代に生きるとは、そういうことなのかなと思います」

  ×  ×  ×  

 ゆりな(25)=ペンネーム=にとってHIKIPOSに記事を書くのは「積み重なった自己否定を一枚一枚丁寧に読みほどき、包み込むような行為」だという。

 中学2年の朝、げた箱で下を向いたまま、相手を確認せずに「おはよう」と声を掛けた。そこにいたのはクラスでヒエラルキー(階層)が一番上の女子だった。「生意気で愚かな子」。すぐにいじめの標的になった。

 公務員の父と専業主婦の母。外から見ると何の問題もない家庭だった。だが母は「外に出しても恥ずかしくない人間を作りたい」という感情が透けて見える人だった。学校に行かないと選択する心の余裕を与えられることもなく、高校、大学と感覚を殺して通った。

 就職先でつらくなった時、母は「適応できないあなたが悪い」と否定的な言葉を並べた。「私が世間一般の考え方だと思う」とも。

 人を殺すことを容認するのは絶対に許されないことだと分かっている。それでも川崎の事件で自殺した容疑者について、犯行に至るまでの心の苦しみに思いをはせずにはいられない自分がいる。

 「一人の人間の感情にまかせた言葉で語ってはいけないのでしょうけれど…」。長い沈黙の後で、言葉を継いだ。

 「恥の意識は人の心を殺す。その最果てに今、私たちは立っていると思う」(敬称略)

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