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社会

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扉を開けて ルポ ひきこもり

仕事や学校に行かず、社会とのつながりを持たない「ひきこもり」。長期化 高年齢化が進む中、新たな生き方の模索や支援の現場をルポする。

続編「波紋」(3)  むき出しの敵意  「生産性がない?」

2019.8.5 18:31

 その日の議論は、いつにも増して熱を帯びていた。6月中旬、東京都内の公共施設。ひきこもりの当事者や経験者が記事を執筆する雑誌「HIKIPOS(ひきポス)」の編集会議には男女約30人が参加した。テーマは「ひきこもりと偏見」。日常の出来事から、直前に起きた二つの事件へと話題は移っていった。

「ひきこもりと偏見」をテーマにした「HIKIPOS(ひきポス)」の編集会議。「自分たちは生産性がないと思われている」との声が上がった=6月、東京都内
「ひきこもりと偏見」をテーマにした「HIKIPOS(ひきポス)」の編集会議。「自分たちは生産性がないと思われている」との声が上がった=6月、東京都内

 

  「なぜ父親が擁護され、被害に遭った息子がたたかれるのか」。編集長の石崎森人(36)が口火を切った。父親とは、東京都練馬区で長男(44)を刺殺したとして逮捕・起訴された元農林水産事務次官のことだ。

 長男はひきこもりで家庭内暴力があった。その4日前には川崎市でひきこもり傾向にあった男が児童ら20人を殺傷する事件が起きたばかり。「長男も人に危害を加えるかもしれないと思った」。元農水次官の供述が報じられると、インターネット上には「よくやった」との書き込みまで現れた。

 自分たちは殺されても仕方がない存在なのか。むき出しの敵意に対し、30代男性は「川崎の事件では、まだひきこもりへの意見が分かれていたが、練馬の事件で『ほれ見たことか』となった」と話す。

 HIKIPOSは2018年2月創刊。「ひきこもりを経験した人にしか分からない文脈を、自分の言葉で伝えることに意味がある」(石崎編集長)として、「恋愛」「働く」「幸福」などのテーマで特集を組んできた。事件後はウェブサイトへのアクセスが急増し、半月で8万回を超えた。

 ひきこもりへのバッシングを「生産性がないと思われているから」と語ったのは30代女性だ。

 高校時代に不登校となり中退。高卒認定試験を経て大学に進み、就職活動では自らの過去をあえて隠さず面接に臨んだ。ひきこもりという「明らかにマイナスな体験」をプラスに言い換えない限り、他の新卒者には勝てないと思ったからだ。困難を乗り越えた経験は「意外とアピールポイントになった」。

 だが入社後にまもなく母が病気で倒れ、自身も心労が重なった。医師の勧めで休職を申し出ると、上司はばかにしたような笑みを浮かべた。

 「これだからひきこもりは…」

 家族が病気になり、心身に不調を来すのは誰にでも起こりうること。それなのに、過去のひきこもり経験が原因だとみられてしまう。悔しさと同時に、目の前に、どうしようもなく高い壁があるのを感じた。(敬称略)

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