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迷ったときに手にしたい一冊 児童精神科医・夏苅さんの新著 

2017.9.21 11:01
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夏苅さんの新著「人は、人を浴びて人になる」
夏苅さんの新著「人は、人を浴びて人になる」

 静岡県焼津市の児童精神科医・夏苅郁子さんが新著「人は、人を浴びて人になる 心の病にかかった精神科医の人生をつないでくれた12の出会い」(ライフサイエンス出版、1620円)をこのほど出版した。

 夏苅さんは、幼いころに母親が統合失調症になった影響で自身も心を病み2度も自殺を試みた。つまり、「患者の家族」であり、「患者本人」であり、「医師」でもある人だ。本書では、もがき、悩み、苦しむ夏苅さんを「光で照ら」すことでその回復を助け、「『まっとうな』人生を送れるよう」にしてくれた12の出会いについて綴っている。

 夏苅さんが「大切な人達」と呼ぶ中には、日本における終末期医療をけん引してきた柏木哲夫・淀川キリスト教病院理事長がいる。だが、登場する人たちのほとんどは高名ではない。幼い時に助けてくれた叔母や生きることに迷う人、新人医師時代に担当し手を尽くしたものの「自死」を選んだ女性患者、長い間嫌悪し距離を置き続けた母親と同じ統合失調症の男性患者、そして初めての友達である愛犬のコロ…。そう、夏苅さんも言う「普通の人たち」だ。

 そんな「心にずんと入ってくる」人たちとの交流を通じて、夏苅さんも徐々に変化していった―。このように書くと、夏苅さんは若くして、それこそ“あっさりと”立ち直ったかのように感じるに違いない。ところが、登場する人たちの多くと出会うのは30歳のころから。2度目の自殺を図った後だ。そして、本当の意味で「まっとう」に生きるための「扉が開」いたのは2010年、55歳の時だった。そんな夏苅さんを、本にも登場する統合失調症の男性患者は「トライアスロンをやってきたんだね」と評する。男性の病歴は30年以上。そんな彼から見ても、夏苅さんが生きてきた道のりは過酷だということなのだろう。

 大きく変わるきっかけを与えてくれたのは、漫画家の中村ユキさんが著した「我が家の母はビョーキです」。夏苅さんと同じく統合失調症を患う母親を持つ中村さんは、深刻で時に壮絶ともいえる母親を巡る体験を、ほのぼのとした画調ながらもどこか第3者的な“冷めた”目線で描いている。その効果もあるのか。内容はとても重いのにユーモアを感じる一冊だ。

 中村さんとの出会いで、夏苅さんは母親の病気、そして自身の半生を公表することを決意する。自身の半生を医学者の視点からまとめた論文を執筆。12年には論文を基にした「心病む母が遺してくれたもの」(日本評論社)を出した。さらに、講演などで自身の体験を語ることが回復を後押しした。そして、「患者の立場も家族の立場も医師の立場も、素直に受け止めようになった。どれもが、本当の私なのだから」と思い至り、自分に自信が持てるようになった。

 何度も読み返して感じるのは、あきらめないことの大切さだ。現実にはね返されて、へこたれても、くじけてもいい。でも、また挑む。もっとも、言うは簡単だが実際には難しい場面もある。そんな時は、時間をおいて体勢を立て直すのだ。その気概を持ち続ければ、夏苅さんのように「大切な人」に巡り会える。私自身、今春に受けた大きな手術の影響でまだまだ完調とは言えず、心そして、体から不安がなくなることはない。それだけに、一言一言が心に染み入ってきた。

 同時に、嫌なところ、影の部分といったネガティブな部分を含めたその人自身を受け入れてくれる人間の存在がいかに大きいかを再認識させられる。そして、私を含む読み手に鋭くこう問うている気がする。周囲の人を受け入れられていますか? 知らんぷりをしたり、拒絶していませんか?―と。

 迷ったり、行き詰まったと感じたときには必ず手に取りたい一冊だ。(47NEWS編集部 榎並秀嗣)

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