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第1部「能力至上社会を生きる」(3)「甘えるな、乗り越えろ」  努力する意欲も失われ(格差の現場から③)

2018.7.9 12:02
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 努力すれば報われる。能力を高めれば誰もが活躍できる。生まれや身分に関係なく、個人がその能力によって評価される仕組みは、自由な社会の原則だったはずだが…。

 「いかにも問題ありな感じですよね」。埼玉県に住む無職の女性(27)が、履歴書を前につぶやく。2015~17(平成27~29)年。短期間に入社と退社を繰り返した記録が並んでいる。

 母子家庭で生活保護を受けて育った。父親の違う弟には自閉症があった。周囲と異なる家庭環境を恥ずかしいと感じ、高校時代は引きこもり気味になった。「いつか自立してみせる」。奨学金を受けながら、私立大学に通った。

3年の間に入退社を繰り返した森永花音。履歴書の職歴欄には、転職の記録が記されていた(画像の一部を加工しています)
3年の間に入退社を繰り返した森永花音。履歴書の職歴欄には、転職の記録が記されていた(画像の一部を加工しています)


 だが、周囲には裕福な家庭で育った学生が多く、会話がかみ合わない。親しくなった女性の先輩に自分の境遇を打ち明けると「あなただけが不幸なわけじゃない。努力で乗り越えないと。甘えてはいけない」と諭された。「恵まれた環境で育った人に言われても…」。反発だけが残った。

 大学を卒業する間際、内定していた小さな広告会社から、一方的に契約社員への変更と給与の減額を告げられ辞退した。いくつかのアルバイトの後に就職したが、母親と離婚相手の男との金銭トラブルに巻き込まれて、仕事が手につかなくなり退社した。次の会社は業績不振で仕事が入らず、職場で手持ちぶさたな日々が続いた。

 「もっとバリバリと働いて認められたい」。東京のゲーム制作会社に転職したが、中途社員は経験者ばかりで「仕事は自分で覚えて」と言われた。すぐについていけなくなり、ストレスで持病が悪化。職場で動けなくなった。上司に「体調管理もできない人には価値がない」「能力不足」と言われ5カ月で退社した。

 人並みの努力はしてきたように見える森永の半生。成功者とは何が違ったのか。「振り返れば『克服しろ』『乗り越えろ』と努力を求められ続けてきた。現実には自分でもどうしようもないことがあるのに、それを口にすると『甘え』だと言われてしまう」。かつては貧困から成り上がるサクセスストーリーも夢見ていたが、「もう、仕事に夢は見ない」と語った。

 「それは自己責任だ」。04(平成16)年、イラクで武装集団の人質となった若者3人に向けられた強烈なバッシング。その後「自己責任」は用いられる場面を変え、日本社会の中に浸透した。ワーキングプアや貧困高齢者ら格差社会の下層に落ち込んだ人たちは、事情も顧みられることなく「努力してこなかったのが悪い」と突き放される。

 社会活動家で法政大教授の湯浅誠(ゆあさ・まこと)(49)は「自己責任論は『努力したか、しないか』を問うが、努力をしても報われなかった人への想像力、そしてどうすれば努力できる意欲が持てるのかという議論が欠けている」と指摘する。

 競争のスタートラインは、全ての人に平等に用意されているのだろうか。(敬称略)

 イラク日本人人質事件 2004(平成16)年、イラク入りしたボランティア活動家ら日本人男女3人が武装集団に拉致された。3人は解放されたが、政府関係者のほか国民からも「軽率な行動のせいだ」と非難する自己責任論が噴出した。

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