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(10)自然体験 生きものと子どもをつなぐ 喜びや幸せ、一体感を

2017.12.10 21:52
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子どもたちの書いた生きものカードを手に話を聞く天野未知さん=東京・葛西臨海水族園
子どもたちの書いた生きものカードを手に話を聞く天野未知さん=東京・葛西臨海水族園

 網を持ってセミを狙っている女の子がいる。「トカゲ捕まえた!」。男の子が歓声を上げた。東京・葛西臨海水族園が夏休みに開いた小学3、4年生向けの「海のあそびや」。園内の林や草地、川で生きものを捕まえ、学ぶプログラムだ。

 中心にいるのは水族園教育普及係長の 天野未知(みち)さん。子どもと自然をつなぐ多くのプログラムを実行してきた。子どもの自然体験が不足していると言われて久しいが、そもそもなぜ自然体験が必要なのだろう。

 「自然の中で遊び、楽しさや幸せな気持ちを感じるのはそれ自体、とても豊かな体験です。そして感性の柔らかな時期に生きものや自然との一体感や共感を経験すれば、大人になってからも自然を尊く大切だと思うようになる。自然を残したいという気持ちになり、例えば冷房の設定を高めにするような、小さなことでも行動すると思う。自然と人間の関係はいろんなところでほころびが出ています。今、行動を変えていかないと」

 天野さんは前任の動物園、東京・井の頭自然文化園では、園内の遊休地に里山のように手を入れて虫や鳥、 爬虫類などの生きものを集め「いきもの広場」と名付けて、子どもたちに開放した。どうして動物園や水族館で自然体験なのか。

 「動物園や水族館には多様な生きものがいて、誰でも気軽に入れるのでたくさんの多様な利用者が来ます。それを利用して学びを提供したい。『海のあそびや』のような教育プログラムだけでなく、ふだんの展示解説でも『珍しい』とか『かわいい』から一歩進んで、観察を通して身の守り方や食べ方などの学びを引き出せるように心がけています」

 自然体験は子どもをどう変えるのだろう。

「海のあそびや」プログラムの一場面。天野未知さんの持つ水槽を下からのぞく子どもたち=東京・葛西臨海水族園
「海のあそびや」プログラムの一場面。天野未知さんの持つ水槽を下からのぞく子どもたち=東京・葛西臨海水族園

 

 「例えば、図鑑なんかで生きもののことをすごくよく知っている子がいる。でも干潟の生きものを探すプログラムで、砂に穴を掘って暮らしている小っちゃなカニを捕ろうというとき、砂に触れない。全然掘れない。その子がようやく砂の中のカニを捕ったんです」

 彼は母親に「お母さん、僕、このカニ、どうしても持って帰りたい」と頼んだ。困り果てるお母さん。天野さんはこの日、彼がどれほど変化したか母親に伝え「これはすごいチャンスです。彼は自分が初めて触れたカニを飼いたいと思ってる。死んじゃってもいいから持って帰らせてあげてください」と説得した。

 「ここでの経験は1回きり。でもきっかけとして大事にしたい。飼育なんかはすごくいい。うまくいけば何年も生きものとの付き合いが続きます」

 川遊びプログラムに2年前に参加した女の子が最近、訪ねてきた。「そのとき捕ったカワニナをまだ飼っていると言うんです。ホタルの幼虫の餌にもなる巻き貝で、それが増えたと報告してくれた」。天野さんがうれしそうにほほ笑んだ。

 

みんな虫好きになった 鳥になって探す 

 夏休みの「海のあそびや」プログラム。生きもの探しに出かける前、テントで天野未知さんが子どもたちに話しかけた。

生きもの探しに出発する子どもたちとスタッフ。中央後ろ姿が天野未知さん=東京・井の頭自然文化園
生きもの探しに出発する子どもたちとスタッフ。中央後ろ姿が天野未知さん=東京・井の頭自然文化園

 

 「今日はいろんな生きものを探して、採集した生きものをじっくり観察します。虫だけじゃなく、どんな生きものがどんなところにいたか、記録に残すのが、みんなのやることです」。そして問い掛ける。「虫を探して捕るのが一番得意なのは何だと思う?」。「カエル!」「鳥」「アリクイ」と声が上がる。

 「虫を捕るのが一番得意なのは鳥の仲間です。シジュウカラという小っちゃな鳥が1日に何匹、虫を食べるか調べた人がいる。何匹だと思う?」

 「50匹」「もっと」「100匹」「もっともっと」「300匹」「そう、なんと342匹もシャクトリムシを食べた。今日はみんな鳥になった気持ちで必死に生き物を探してみよう」。でも虫好きかどうか天野さんが聞くと、何人か手を挙げない。

 生きもの探しを終えて、透明カップに入れた虫やトカゲ、ヘビをグループ分けする。基準は「見つかりやすいか」、次に「体色」、子どもの提案で「大きさ」。そして「生きものカード」に絵を描き特徴も記録する。みんな生き生きしている。

 最後に感想を発表した。一番楽しかったのは「カナブンやバッタを捕ったこと」と女の子。「穴を掘って探した」と男の子。10匹以上もトカゲを捕って「全部飼いたい」と言う男の子に、天野さんが「コオロギとか生きた餌が好きだから大変だよ。どうしても飼いたいなら1匹だけにしたら」とアドバイスする。みんな生きもの好きになって帰った。

 

前から近くに 

 東京・井の頭自然文化園の「いきもの広場」は、土を削ったり盛ったりして池や草原、雑木林をつくり、ほだ木や石積みといった仕掛けも置いた。そして多くの生きものがやってくるようになった。「身近にこんなに生きものがいるとは思ってもみなかった」と天野未知さんは話す。

 鳥の気持ちになって虫を探す。生きものの身になって隠れ場所や隠れ方を見抜く。そうすると見えてくる生きものたち。気付かなかっただけで、彼らは本当は前から近くにいたのだ。(共同通信編集委員・佐々木央)=2015年7月配信

 

 

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