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子どものいま未来

いじめ、不登校、虐待や貧困。子どもたちをめぐり山積する課題に、教育や福祉の最前線で取り組む専門家・支援組織の活動を追う

(8)希望の生徒会 地域と連携、互いに活性化 やる気に火を付けた 

2017.10.31 17:23
生徒と話す吉田真一教諭。笑顔が柔らかい
生徒と話す吉田真一教諭。笑顔が柔らかい

 子どもの自治を育むはずの学校の生徒会が形骸化し「先生の下請け機関」と言われて久しい。それは、民主主義が根付かず、公職選挙で低投票率や無投票が当たり前となった日本社会の姿と重なる。熊本県菊池市にある県立菊池高校の吉田真一教諭は流れに抗し、生徒のやる気に火を付けた。そんな「希望の生徒会」とは。

 ▽イベントにどんどん参加

 「本校は創立107年の伝統校で生徒数約530人。でも地元の子は熊本市への進学を望み、生徒数は減っている。私が赴任して来たのは2011年春で、教員になって18年目で初めて生徒会顧問になりました」

 「5月の体育祭に向けて委員に『新しい企画を』と求めても『今から変更は大変ですよ』『例年通りで』と、どちらが先生か分からないような返答。委員の多くは部活や課外活動を掛け持ち、生徒会に力を入れる意欲も余裕もなかった」

 自発性には期待できない。生徒がわくわくするアイデアをこちらから出すしかない。10月の文化祭で発表のステージを体育館から野外に移した。

 「ところが前日は雨。リハーサルも満足にできず不満が出た。しかし当日は雨があがり、バザーの手伝いに来ている保護者も発表を見てくれた。すごい盛り上がりでした」

新入生歓迎の「千人バーベキュー」。最初の年、それまで話したことのなかった3年生が吉田教諭に「先生、このような会をしてくれてありがとうございました」と言いに来た
新入生歓迎の「千人バーベキュー」。最初の年、それまで話したことのなかった3年生が吉田教諭に「先生、このような会をしてくれてありがとうございました」と言いに来た

 菊池市は平安時代から菊池一族が支配、九州の中心だった時代もあり、春には「イケ武者コンテスト」が開かれる。吉田教諭は12年春、生徒を参加させた。「驚いたのは人の少なさ。出場者24人を含めても70人もいない。でもちゃんと賞金も出る。地域には金があるけれど人がいない。高校には人がいる。両方を合わせればいいと、ひらめいた」。学校行事を地域に開き、地域のイベントにどんどん参加した。

 ▽流しそうめん世界一に挑戦

 生徒も、生徒会が面白そうだと感じ始める。生徒会長が「生徒会に専念する」と言いに来た。12年の改選では会長に3人が立候補、選挙になった。

 「12年春に新入生歓迎の『千人バーベキュー』をやりました。菊池は有数の酪農地域。地元のおいしい肉、野菜、水を味わってもらおうと、同窓生や保護者も参加した」

 13年には、まちづくり団体の協力を得て文化祭ステージを地元の竹で作る。14年は「世界一の流しそうめん」に挑戦。そうめんを流す 樋(とい)も生徒が苦労して作り、世界記録を超える3・3キロの流しそうめんを成功させた。

「世界一の流しそうめん」に挑む。実行委員の一人は「菊池という故郷がこんなにいい土地だったのかと思う機会が何度もあった」と話した
「世界一の流しそうめん」に挑む。実行委員の一人は「菊池という故郷がこんなにいい土地だったのかと思う機会が何度もあった」と話した

 職員会議の反対で生徒の企画が通らなかったことも。卒業生を送る会でのハプニング的なダンスパフォーマンス、フラッシュモブもその一つだ。

 「挫折も踏まえ、生徒たちは物事を進めるルールを練り上げました」。それは①特定の人が決めるのではなく、みんなで決める②議題は事前に説明し、意見を持って会議に集まる③賛成の場合は理由を、反対のときは代案を出す。代案がない場合、反対することはできない―というものだ。

 「生徒たちは動きだしている。これが熊本県全部の高校に波及していくような連携をつくりだしたい」

チャレンジを大切にする 「やるな」とは言わない 

 生徒にとって吉田真一教諭はどんな先生なのか。

 「『そんなことはやるな』とは絶対言わず、僕たちの意見を大事にして、僕たちがしたいことをどうしたらできるか考え、アドバイスしてくれる。チャレンジさせてくれる」と生徒会長の 戸田一希 (かずき) 君は話す。

 菊池市には菊池雲上太鼓と呼ばれる伝統芸能があるが、伝承者が高齢化、最近はたたく人がいなくなっていた。吉田教諭は生徒たちに挑戦するよう勧める。「最初は絶対無理だと思った」と体育祭の実行委員長も務めた 佐藤すみれさん。集まって練習できるのは昼休みの20分間だけ。指導者を招き、文化祭まであと2カ月の昨年8月から練習を始めて、文化祭での演奏は成功する。「無理だと思ったことができた。今はみんな雲上太鼓が大好きになりました」

 今年5月の体育祭では、生徒側が応援団のパフォーマンスを提案したが、職員会議を通らなかった。そのことを実行委員に伝えた後、吉田教諭は問い掛けた。「これで君たちはあきらめるの? それでいいの?」

 競技種目の組み替えのためのアンケートなど、受け入れられた提案もあった。「先生に言われてやる気になった。力を入れるところを変えて、提案して残ったことをどう頑張るかだと思った」と佐藤さん。

 その体育祭を吉田教諭はこう振り返る。「この高校に来て初めて、僕は何もしないで見ているだけだった」

記者ノート「失敗はない」

 「世界一の流しそうめん」の企画で、支援する菊池市当局は記録達成にこだわった。だが吉田真一教諭の考えは違った。子どもが全力で取り組めば、結果はどうあれ失敗ではない。それは次に何かに取り組むとき、もっと大きな力を生む。

 菊池高校の生徒は、自分たちで方針を決め、計画を作り、協力して実現を目指す。時には力不足で、時には大人の壁にぶつかって挫折するが、それも貴重な経験だ。共同体の決定とその実行に主体的に参加する市民は、こうして育つのだと思う。(共同通信編集委員佐々木央)

 

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