メニュー 閉じる メニュー
社会

社会

子どものいま未来

いじめ、不登校、虐待や貧困。子どもたちをめぐり山積する課題に、教育や福祉の最前線で取り組む専門家・支援組織の活動を追う

(14)わくわくエンジン 生きる原動力見つけたい  一人一人が輝く社会に

2018.5.9 13:33

 わくわくして動きださずにいられない。そんな原動力のようなものが誰にだってあるはずだ。それを見つけられれば、子どもたちは自分で動きだす。川崎市のNPO法人「キーパーソン21」の代表、朝山あつこさんは、その原動力を「わくわくエンジン」と呼び、子ども一人一人から引き出す活動を続けている。

 キーパーソン21の運営についてスタッフと話し合う朝山あつこさん
 キーパーソン21の運営についてスタッフと話し合う朝山あつこさん

 自分を知る

 例えばアニメが好きなら、アニメがわくわくエンジンなのだろうか。朝山さんによれば、そうではない。

 野球に夢中な子どもがいれば、大人はつい「野球選手になれば」と言う。しかし、プロ選手にまでなれる人は多くない。中学高校ぐらいになると「おれ、プロは無理だし」と気付き、挫折したような気持ちになる。

 キーパーソン21のプログラムを一緒に受けた中学生の中で、3人が野球に打ち込んでいたケースがあった。なぜ野球が好きなのか。突っ込んで聞くと、A君は作戦を立てること、B君はチームに自分が役立っていること、C君は素振りや筋トレで日々、成長を感じることと答えた。わくわくエンジンは三者三様だった。

 それなら3人とも打ち込む対象は野球に限らない。「このわくわくエンジンを自分で見つけているか、親や先生が理解しているかが、とても重要です」。キーパーソンの活動は、子どもたちがまず自分自身を知ること、次に社会を知ることを目指す。そのためのプログラムは多様だ。

「伝える・尋ねる・お願いする」の3関門突破を目指すコミュニケーションゲームの様子
「伝える・尋ねる・お願いする」の3関門突破を目指すコミュニケーションゲームの様子

 自分や友達の好きなもの、大切に思うことを知り、世の中の仕事とつながっていることに気付く「すきなものビンゴ&お仕事マップ」、初めて会う大人と会話し「伝える・尋ねる・お願いする」の3関門突破を目指すコミュニケーションゲーム…。

 わくわくエンジンを見つけた子は劇的に変わると朝山さんは言う。最近も小6から不登校だった男子高校生が、個別プログラムを受けた後、急に登校し始めた。

 いずれかのプログラムを受けた子は3万5千人を超えた。

 荒れる学校

 朝山さんは男の子3人の母親。18年前、中2だった長男の学校が荒れた。生徒が暴れ、廊下に牛乳をまき、トイレを壊す。ひどく無気力になる子もいた。「暴れる子も無気力な子も退屈そうに見えた。何に向かって生きていくか分からなくなっているようでした」と朝山さん。目標は親や先生に与えられるだけ。主体性が奪われてしまっているのではないか。

 
 

 長男は中3になって「高校に行かない」と言いだす。それは朝山さんの固定観念を揺さぶった。「一本取られたと思いました。確かにこれが学校だと思ったら学校に行きたいと思うわけはない。学校や地域、家庭、日本の教育のあり方そのものが問われている」と気付く。

 自分の子どもだけの問題ではないと2000年、キーパーソン21を創設する。NPOの活動と自らの子育て経験から、課題とその解決の道筋をつかみ「一人一人が輝く」という理想の実現に向けて走っている。

見違えるように猛勉強 原点に明確な目的意識 

 キーパーソン21は生活保護世帯の中学生を対象に無料の学習会を開いている。中3で母親に連れて来られたトシ君(仮名)は6時半から2時間の教室なのに、終了直前に来て5分間だけ勉強して帰るような状態だった。

 ある日、わくわくエンジンのプログラムを受けたので、朝山あつこさんが感想を聞くと「自分に感動した」。彼のわくわくエンジンは「幸せな家庭を築くこと」だった。

 そのためにはお金を稼がなくてはならない。彼は「どうせ働くなら好きなことをしたい。モノ作りが好きなので建築科のある学校に行き資格を取りたい」と話した。学ぶ目的が明確になって見違えるように猛勉強を始め、全日制の工業高校に合格した。

 勉強が中だるみになった時期もあった。朝山さんが「トシ君、このごろどうしたの、やる気なくなっちゃった? 幸せな家庭築きたいんじゃなかったっけ」と声をかけると「そうだった、そうだった」と思い出したかのように、また勉強に集中した。「わくわくエンジンはそんなふうに、原点に戻るところなんです」

 資格取得を目指して高校も休まずに通っている。

 学習会に来る中3の少女は外国籍の母と2人暮らし。「働きっぱなしの母を助けたいから中学を出たら働く」と話していたが、プログラムを受け「親のいない子のための施設をつくる」という夢を見つける。母の母国でホームレスの子と接した体験があったからだ。

 朝山さんは「夢のためにも進学を諦めない方がいい。助成制度を利用すれば進学できる」と勧め、少女は夢の実現に向かって歩みだした。

 「一口メモ」最高点 

 東京都内の中学校で7月、キーパーソン21の「コミュニケーションゲーム」の実践を見た。第3関門のテーマは「親に携帯電話を持たせてほしいとお願いする」。生徒は4人一組できょうだいになり、父親・母親役の大人に理由を説明する。「アルバイトのために必要だ」「家族の連絡のために欲しい」。父親に断られ、末っ子役の女子生徒がこう説得した。「私は小学生だから、なくてもいいけど、お兄ちゃんたちには必要なんだから認めてほしい」。この女子生徒に最高点が付いた。

「記者ノート」豊かさ支えたい   

 私のわくわくエンジンは何だろう。取材していて、何度か立ち止まるような気持ちになった。

 キーパーソン21のプログラム「すきなものビンゴ」は、4人で16のマスを埋める。1人四つずつ好きなものを言い合う。アニメやゲーム、アイドルが並んだらおしまいかと思ったら、そうではなかった。スポーツや趣味に関わること、大切な時間…。チームごとに個性のある16マスが完成した。

 多くの問題はあっても、子どもたちは豊かに生きようとしている。それを支えたいと思った。(共同通信編集委員・佐々木央)=2016年7月取材

 

最新記事

関連記事 一覧へ