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子どものいま未来

いじめ、不登校、虐待や貧困。子どもたちをめぐり山積する課題に、教育や福祉の最前線で取り組む専門家・支援組織の活動を追う

(12)子どもがつくる町 管理や指示排し自由に 大人にも学びの場

2018.1.9 12:39
「ミニいちかわ」の低学年版「こどもがつくる! お店やさんごっこ」で子どもスタッフと話す渡慶次康子さん
「ミニいちかわ」の低学年版「こどもがつくる! お店やさんごっこ」で子どもスタッフと話す渡慶次康子さん

 千葉県市川市で毎年秋に開かれるイベント「ミニいちかわ」は、子どもが主人公だ。市役所や銀行、新聞社や飲食店を運営し、そこで働くのも子どもたち。給料をもらい、買い物をしたり、遊んだりする。

 主催するNPO法人市川子ども文化ステーションの理事長、渡慶次(とけし)康子さんは「子どもたちは自由に発想し、生き生きと動く。大人たちにとっても学びの場となり、子どもと大人の懸け橋になっています」と話す。「子どもの町」が大人の学びにつながるってどういうことだろう。

 問題は大人たち

 子どもによる疑似的な町づくりはドイツの「ミニミュンヘン」がモデル。日本では2002年、千葉県佐倉市で開かれた「ミニさくら」が最初だ。2回目の「ミニさくら」に参加した市川の子どもたちが中心となって、03年に第1回の「ミニいちかわ」を開いた。

 準備の中心となったのは中学生、高校生らのユーススタッフ。会議を重ねて町の仕組みを考え、チラシやポスターも作った。通貨の名前「メティ」は「メークシティ(町をつくる)」を略した。

 「2日間で小学生や幼児1500人が市民として参加し、盛り上がりました。仕事を紹介する職安は長蛇の列。初めて出会った異年齢の子たちも驚くほど自然に会話して仕事を教え合い、ブースを運営していた」

 だが、問題は付き添いの大人たちだった。運営にクレームを付けたり、子どもが稼いだメティを管理しようとしたり。

 翌年はスタッフにならなければ大人は町に入れないと決め、ブースのサポートに徹するよう求めた。受付でけげんそうな顔をして仕方なくスタッフとして入った親が、帰る時には表情が変わる。「子どもが積極的で驚いた」「声を掛けたくなるのを我慢したら、子どもなりの考えで行動していることが分かった」と感想を残した。

 クロイヌトマト

 3年目からは市内2カ所で計4日間の開催に。1日約千人の子どもが参加する大人気イベントに育っていく。08年には市内の全小中学校を通じて小4以上を「子どもスタッフ」として募集、約100人の子どもたちが2会場に分かれて計画・準備段階を担う。

昨年の「ミニいちかわ」。働いた分の給料を銀行でもらう
昨年の「ミニいちかわ」。働いた分の給料を銀行でもらう

 「最初は何も言いだせなかった子も次第に自分の意見を言えるようになってくる。銀行のATMを作りたくて詳細な設計図を書いてきた小4の子は当日、段ボールで見事なATMを完成させていた。宅配便を計画した中1の子は『クロイヌトマト』という看板を掲げ、荷物の受付表もしっかり準備していた」

 大人の過剰な指示や管理がなければ、子どもたちは自由に考える。ユニークなアイデアが大切にされ、お互いに助け合い、形にしていく。「“転ばぬ先のつえ”を出すのでなく、子どもの力を信頼する。子どもの主体性を尊重する大人が地域に増えることは、この活動の重要な目的の一つです」

 

悪い人を捕まえるより悪いことをさせない 失敗こそ学びの機会  

 「ミニいちかわでもさまざまな問題が起きます。そのときどうするかが大切なんです」と渡慶次さん。

「ミニいちかわ」の歩み

 おととし、小4の男の子が市長になった。「牢屋を作って、悪いことをしたら牢屋に入れ、罰金を取ります。草取りの強制労働もさせます」と市長としての政策を打ち出し、みんなも認めた。渡慶次さんは「何か問題が起きそうだな」と思ったが、黙っていた。

 初日。町の中は走らないというルールがあるので、警察で働く子どもたちは、走った人を見つけては捕まえた。泣きだす子もいた。捕まった子の一人は、引きずられて洋服が破れてしまった。

 1日目が終わった後、夕方から真剣な話し合いが始まった。

 「みんなで納得して決めた罰金制度だけど、せっかく楽しみにしていたミニいちかわがつらくなってしまう子がいるのはどうだろう。だから、これはやめよう。そう、子どもたち自身で決めました」

 ミニいちかわの警察は何をするところか。子どもたちは「町を安全にするために警察がある」という答えに至る。そうだとすれば、走る人を捕まえるのでなく、走る人が出ないように、呼び掛けていこうということになった。悪い人を捕まえるよりも、悪いことをさせないようにしようと。

 「2日目はすごく平和な町になった。こちらから事前に、問題が起きるからやめようと言ってしまったら、子どもたちはやりたいことを止められたと思う。失敗の中から学んでいく機会を奪ってはいけないと思います」

 

「メモ」保護者への対応 

 「子どもがつくる町」は全国に広がり、80カ所とも100カ所ともいわれている。子どもの自主性、主体性を重視する点は共通するが、渡慶次さんによると、どこでも必ず問題になるのが、子どものやり方に干渉する保護者の存在だ。

 対応は2通り。保護者を完全にシャットアウトするか、ボランティアスタッフとして認め、関係を築いていくかだ。ミニいちかわは後者。大人の側が子ども観を変え「子どもを尊重する大人になってほしい」というミニいちかわの願いからすれば、当然の対応といえる

「記者ノート」時間を返す試み 

 子ども時代は良き大人になるための準備期間なのか、それともそれ自体がかけがえのない時間なのか。もし、その時間が大人になるために消費されるべきなら、学校や塾や習い事、部活やスポーツクラブで埋め尽くされても文句は言えない。

 だが子どもが、彼ら自身の時間の主人公であるべきだとしたら、道草をしたり、いたずらをしたり、広場で日が暮れるまで遊ぶ自由もあるはずだ。ミニいちかわは、時間を奪われた子どもたちに、時間を返す試みといえるかもしれない。(共同通信編集委員・佐々木央)=2016年3~4月取材

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