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第2部「介護保険はどこへ」(2)「保険外」を積極活用  もろ刃の剣、旗振る経産省 

2018.11.20 11:01 市川亨、梅岡真理子
 市役所職員がスーパー銭湯の営業活動―。愛知県豊明市では、そんな不思議な光景が見られる。行政が特定の民間事業者を宣伝するのは本来ならご法度。だが、それが市の財政負担を減らし、住民にも喜ばれている。

 きっかけは2016年の夏。「高齢者が出掛ける交通の足がない」と悩んでいた市職員が、市内を走るスーパー銭湯の無料送迎バスを見かけた。隣接する名古屋市緑区にある「楽の湯みどり」。乗客の姿はまばらだ。「これは使えるんじゃないか」

スーパー銭湯の無料送迎車に乗り込む高齢者
スーパー銭湯の無料送迎車に乗り込む高齢者

 この職員の話を聞き、楽の湯に宣伝協力を申し入れた豊明市健康長寿課の課長補佐、松本小牧(40)の説明はこうだ。市では介護保険のうち軽度の要支援1、2のデイサービス費用が5年間で2・5倍に増加。一方で要支援1の人の半数超が1年後には重度化していた。


 「週1~2回デイサービスに行っても、残りの日、家に閉じこもっていては意味がない。外出の機会をつくったほうがいい」。楽の湯のチラシを高齢者に配るなどPRした結果、バスの乗客は3倍増。逆にデイサービスの費用は減少に転じた。

 楽の湯の料金は1回700円ほど。朝食付きなので、高齢者が朝から来てお風呂に入り、新聞を読んだり知り合いとおしゃべりしたりとにぎわう。松本は「介護保険の枠に当てはめる支援になりがちだったが、保険外サービスも活用する発想の転換が必要だ」と話す。

 一方、国家戦略特区の仕組みを活用するのが東京都豊島区だ。保険外サービスを併用する「混合介護」のモデル事業を18年8月に開始。訪問介護でヘルパーが高齢者の話し相手になったり庭掃除をしたりと、介護保険で制限されている支援を提供する。3年間実施し、保険外サービスの普及を進めたい考えだ。

 こうした流れの旗を振るのは、産業政策を担う経済産業省。「保険外サービスを活用することで高齢者の生活の質が向上し、介護予防や地域の課題解決につながる。社会保障費が減り、経済効果も数兆円見込める」と意義を強調する。

 介護業界は敏感に反応する。経営コンサルタントの小浜道博(59)は「社会保障費抑制で介護保険は縮小傾向。一方でニーズは増えるから、保険外サービスの市場拡大は確実だ」と、事業者に経営の多角化を勧める。

 ただ、もろ刃の剣にもなりかねない変革だ。「介護保険で必要なサービスを利用できないと、『何のために高い保険料を払っているのか』と制度の信頼が揺らぐ」。市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰の小竹雅子(61)はそう警告する。
 
(敬称略、年齢・肩書は取材当時)

 

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