×
メニュー 閉じる メニュー

遺伝物質を治療や予防に コロナで注目のmRNA薬 日本も関節症で実用研究

2021.8.3 0:00
 新型コロナウイルスワクチンに使われたことからよく聞くようになった「メッセンジャーRNA(mRNA)」は遺伝物質の一種だ。これを薬として直接体内に入れる研究が実用化目前に来ていたところへコロナの世界的大流行が起き、通常10年はかかるワクチン開発が1年未満という驚くべき短期間で実現した。ワクチンで高い有効性が示されたことで、今後幅広い病気の治療や予防に応用される可能性がある。
 
 

 

 ▽ベンチャー

 日本でも承認された米ファイザーとドイツ・ビオンテックが共同開発したワクチンと、米モデルナのワクチンの主成分はいずれも人工合成したmRNAだ。

 mRNA薬の人への投与はコロナが初めてではない。ビオンテックやモデルナなどのベンチャー企業は、別の病気の予防や治療を目的にmRNA薬の安全性と有効性を確かめる臨床試験(治験)を進めていた。
 インフルエンザやジカ熱、サイトメガロウイルス感染症などに対するワクチンのほか、皮膚がん、乳がんなどの治療を目指していた。どれも承認に至っていなかったが実用化の大枠はできていた。
 ▽課題を克服
 mRNAは生命活動に必要なタンパク質を合成するため、設計図であるオリジナルの遺伝情報を部分的にコピーし、細胞内のタンパク質合成の現場まで運ぶ役割を果たす。
 コロナワクチンの場合は、ウイルスにある突起状のタンパク質の遺伝情報を含む。注射で人の体内に入ると、細胞の働きでウイルスの突起状のタンパク質が作られる。人間の免疫がその特徴を記憶し、本物のウイルスが入ってきた際に素早く排除できるようになる。
 
 

 

 mRNA薬の研究は1990年ごろから行われていた。ワクチンとして体内に入れても、できるのはウイルスの“部品”だけなので感染して病気になる心配はない。作り替えも簡単なので、短期間で開発でき、新興感染症の脅威にも対応しやすい。
 実用化への課題としては、mRNAは不安定で扱いにくいこと、強い免疫反応を引き起こすので副反応が心配―などがあったが、壊れないように脂質の膜に包んで投与する技術や過剰な免疫反応を防ぐような改良法が開発され、2005年ごろから研究は加速した。
 この分野に詳しい東京医科歯科大の位高啓史教授はさらに「遺伝物質を扱うことが倫理的に問題ないかについて、欧州を中心に議論が尽くされていた」と話す。mRNAには遺伝子組み換えを起こすリスクがないこと、体内に長くは残らないことなどが当局側に理解されていたことが承認へのハードルの解消につながったという。
研究室で実験を見守る東京医科歯科大の位高啓史教授=東京都千代田区
研究室で実験を見守る東京医科歯科大の位高啓史教授=東京都千代田区

 ▽2年後

 そうして土壌が整ったタイミングで新型コロナウイルスの流行が起きた。承認までの動物実験や治験、生産体制整備などのステップを同時並行で行い、異例のスピードでワクチンが日の目を見ることになった。
 治療面では、がん以外にもさまざまな病気がターゲットになっている。海外ではモデルナと英製薬大手アストラゼネカが虚血性心疾患の薬として既に治験を開始した。
 東京医科歯科大も、加齢などの理由で軟骨がすり減って膝が痛んだり、寝たきりの原因になったりする変形性関節症治療の研究を進めている。
 軟骨形成を促進させるタンパク質を作るためのmRNAを関節に注射で投与し、軟骨を丈夫にしようという計画だ。位高教授は「23年の治験入りを目指している」と意気込む。承認されればコロナワクチン以外では国内初の活用例となりそうだ。(共同=村川実由紀)

最新記事