遠隔メンタルケアは可能か 診断精度をAIで向上 「ココロボ」がスタート

▽高まる不安
新型コロナの流行では、多くの人が医療機関の受診を控えている。精神科医で研究の代表である中込和幸同センター理事長(神経認知機能)は「受診者の不安が高まっている。もともと精神科の受診はハードルが高いが、その傾向がいっそう強まった」と話す。若い女性の自殺が急増したことが報告され、経済環境の悪化に伴う経済的な困窮も懸念材料だ。
今回の研究では、より簡便なインターネットをメンタルチェックの導入として活用することで、医療を必要とする患者を見つけ出し、こうした受診しない人へ医療が届けられるかどうか、確かめるのが狙いだ。
研究チームは、メンタルの不調を抱える人が自身で気軽にチェックする入り口として、ウェブサイト「KOKOROBO(ココロボ)」を開設。アクセスした人は誰でもこのサイトで心の状態のチェックを受けられる。
▽アプリ利用も可
ココロボではまず、最近1週間の「気持ちのつらさ」や「日常生活への支障」を10段階で自己評価。ページごとに「気分」「不安」「睡眠」の質問にチェックを入れるだけで一定の評価をしてくれたり、受診を勧めたりしてくれる。
メンタルサポートのためのアプリ利用も可能。アプリ上に書き込んだ内容に応じて心の不調への対処の仕方が学べる。
このウェブサイトは誰でも利用できるが、加えて研究の被験者として参加できる地域は限られている。この研究に自治体の協力が得られて地元での相談、受診態勢が整っている東京都小平、三鷹、武蔵野の各市と世田谷、新宿、千代田の各区、埼玉県所沢市と愛知県新城市の居住者だ。

▽将来は事業化を
中込さんによると、医療機関を受診した人向けに専門家が使う質問票形式のメンタルヘルスチェックは、既にいくつもの方法が開発され、有効性も確かめられている。
「ただ、多くの人は不安を抱えていても受診しない。今回のようなインターネットで自宅からアクセスした人ではどんなチェックが有効なのか、これから検証する必要がある」という。
今回の研究は、定評のある質問票形式を利用するが、それへの回答と実際の相談や診察の結果を合わせて人工知能(AI)に学習、分析させるのがミソだ。それにより、利用者数を増やすことで精度向上も期待できる。
ココロボでのチェック段階で医療支援が必要と判断された場合、研究参加者には実際に連絡を取り、臨床心理士による相談や連携医療機関を紹介して支援につなげる。切迫した状況が判明すればさらに、自殺対策の専用電話などへ紹介する。
このシステムの効果、有用性は、1カ月後の改善や参加者の行動、満足度、治療を受けた割合などで評価し、症例を重ねることで精度が上がることが期待される。
研究チームでは、この研究開発を通じて実用的なオンラインのチェック法を開発し、自治体が担う精神保健分野の保健活動をより効率的に、きめ細かく進めるための方策として、事業化につなげたいとしている。
中込さんは「コロナ対応で疲弊している自治体の精神保健福祉センターなどの負担軽減を図りたい」と話した。(共同=由藤庸二郎)