メニュー 閉じる メニュー

患者の選択、医師と一緒に 治療法を「共同意思決定」 腎臓病、電子カルテも

2021.6.15 0:00
 医療の進展によって同じ病気でも複数の治療法が選べるようになった。ただ仕事や食事などその後の生活が左右されることもあり、どれが最善かは人によって異なる。患者の難しい選択を、医師が一緒になって検討しようというのが「共同意思決定(SDM)」の考え方だ。欧米で広がりつつあるが日本での浸透度はまだまだ。普及を進める群馬大の小松康宏教授(医療の質・安全学)は「大切なのは医療者の共感と、対話を通じた選択支援だ」と語る。
患者中心の「共同意思決定(SDM)」の普及を進める群馬大の小松康宏教授
患者中心の「共同意思決定(SDM)」の普及を進める群馬大の小松康宏教授

 ▽人工透析

 小松さんはもともと腎臓内科が専門。患者中心の医療を目指す「腎臓病SDM推進協会」の代表を務める。
 糖尿病などで腎臓が働かなくなる慢性腎臓病の国内患者は約1330万人。人工透析を受ける約34万人の95%が「血液透析」を選ぶ。ベッドに寝て腕から血を抜き、老廃物を装置で除去して体に戻す。1回4時間、週3回の通院が必要。「若い人なら平気だが高齢だと体力を消耗する。帰宅後に寝込んでしまう人もいる」という。
 一方で「腹膜透析」という選択肢もある。カテーテルでおなかに透析液を入れて腹膜から老廃物をしみ出させ、数時間後に新しい液と交換する。自宅でできて通院が少なく、自己管理しながら仕事も続けられる。ただ腹膜透析を選ぶ患者は全体の3%にとどまる。
 ▽選択肢
 小松さんは「世界的に腹膜透析は1割程度。米国や中国では増加傾向にある。日本の医師は患者さんに十分な選択肢を示せていない」と話す。
 腹膜透析にはデメリットもある。カテーテルが体に付いたままで、自分で透析液を交換することが必要。5~10年で腹膜の働きが弱まると血液透析に移行せざるを得ない。
 それでも「自由な時間が増え、疲労が少ないのがメリットになる患者も多い」と小松さん。長年苦しみながら血液透析を続けてきた患者が腹膜透析に変えて生活の質が改善した例もある。
 2020年度からは患者に腹膜透析や腎臓移植の選択肢をきちんと説明することが保険診療の対象となった。小松さんは「共同意思決定の普及に向けた動きが少しずつ始まっている。メリットとデメリットを患者さんと一緒に考えながら、本人に最善の治療を選ぶことが大切だ」と話す。
 
 
 

 ▽情報共有

 実際の治療選択は難しい。患者中心の医療を時に妨げるのが「パターナリズム(父権主義)」だ。医師が治療方針を決めて患者が従う。ただそれが患者に最善とは限らない。一方で医師から説明を受けた後で「どの治療法にするか決めてください」と言われ、戸惑う患者も多い。

 「パターナリズムでも、単なる『説明と同意』でもなく、対話と熟慮の上での決定が望ましい」と小松さんは話す。
 患者との対話が大切だと分かっていても、医師の外来での診察時間には限りがある。病気や治療法の理解を深め、最良の選択を下すための意思決定支援ソフトも開発されており、医療現場での活用が期待される。
 海外では患者とのカルテ情報の共有が進みつつある。外来患者がスマートフォンなどから自分の電子カルテをいつでも閲覧できるようにする法律が米国で最近施行された。小松さんは「患者には自分の医療情報を知る権利があり、それによって医療の質と安全が高まるという理念が背景にある」と解説する。
 群馬大病院も2年前から入院患者が自分のカルテを閲覧できる制度を始めた。「医師による記録や検査結果、薬の処方といった情報を患者自身が知ることがより良い治療につながる」と話す。(共同=吉村敬介)

最新記事