発症関与の遺伝子研究進む 日本で急増の肺感染症 新薬登場、治療に選択肢

2022年02月26日
共同通信共同通信
 日本などで近年患者が急増している「肺非結核性抗酸菌症」という慢性の呼吸器感染症がある。進行はゆっくりだが根治は難しく、患者を長く悩ませる。2021年は日本を中心とした国際チームがこの病気の発症に関わる遺伝子の一つを特定したと発表したほか、新薬も登場するなど前向きな動きが続いた。専門家は「病気を理解するには、病原菌の特徴とともに、人間側の要因を解明する研究を息長く続ける必要がある」と話す。
 ▽完治しにくい
 この病気は、結核菌と同じ抗酸菌の仲間が引き起こす。200種類以上の菌があり、まとめて「非結核性抗酸菌(NTM)」と呼ばれる。土や水回りなどの環境中に広く分布していて、土ぼこりや風呂のシャワーの霧を吸い込んだりして感染するといわれている。
 
 

 

 日本では「肺MAC症」という病名の患者がほとんど。人から人への感染はなく、無症状が多い。しかし、せきや発熱などの症状が出た時点ではかなり進行していて治療しても完治しにくく、呼吸不全や肺の損傷で亡くなる場合もある。患者には中高年の女性が多い。
 世界的に患者は増えており、中でも東アジアが目立つ。慶応大などの調査によると、14年の国内の患者発生率は人口10万人当たり14・7人で、07年の2・6倍に増えた。その後全国的な調査はないが、慶応大の南宮湖(なむぐん・ほう)専任講師(感染症学)は「ここ数年も増えていると思う」と話す。
 ▽遺伝子の変化
 地域や性別で患者数に偏りがあるため、発症には患者の遺伝的な特徴が関わっているとみられ、19年から国際共同研究が始まった。日本、米国、韓国、台湾、オーストラリアが参加し、約3千人の患者から血液を提供してもらってゲノム(全遺伝情報)を調べている。
 慶応大などのチームが、国内の患者1066人のゲノムを解析したところ、体内のイオンや酸性度の調節に関わる遺伝子の一部が健康な人と異なっていた。チームはこの変化が、感染のしやすさや体内から菌を排除する機能に影響している可能性があるとみる。韓国や欧州の患者でも同様の特徴が見つかったという。
肺非結核性抗酸菌症の患者の試料を保存する設備について説明する慶応大の南宮湖専任講師=東京都新宿区の慶応大病院
肺非結核性抗酸菌症の患者の試料を保存する設備について説明する慶応大の南宮湖専任講師=東京都新宿区の慶応大病院

 


 ただ、今回の遺伝子だけでは東アジアや中高年女性に患者が多い理由を説明できない。この病気には他にも多くの遺伝子が関わっていると考えられることから、南宮さんは「研究に協力する患者の数が集まるほど重要な遺伝子が分かり、病気の解明につながる。病気になりやすい人、重症化しやすい人が分かれば、より細やかな治療ができるようになるだろう」と研究の進展に期待する。
 ▽「次の一手」
 病気を理解する研究に加えて、重要なのは治療薬の開発だ。この病気の治療には3種類の抗生物質を併用するのが基本。しかし、年単位で服用する必要がある上、体内の菌を完全に取り除くのは難しい。
 米国のバイオ医薬品企業インスメッドは新たな治療薬「アリケイス」を開発、日本でも承認され、7月に発売した。専用の機器を使って1日1回吸入する薬で、基本の抗生物質では十分な効果がなかった患者が対象となる。臨床試験では、たんから菌が検出されなくなる効果が確認された。
 慶応大の長谷川直樹教授(感染症学)は「最初の治療の効果が不十分だった人に次の一手があることは非常に重要だ」と話す。
 長谷川さんはその上で「この病気は日単位で病状が変わる急性の感染症とは異なり、ゆっくり進行する。患者の遺伝子などを調べた上で対応に生かす時間がある」として、研究の重要性を指摘した。(共同=岩村賢人)