メニュー 閉じる メニュー

医療新世紀

47NEWSの医療・健康サイトは、共同通信社と52新聞社が役に立つ医療、介護、健康情報をお届けします。最新ニュース、医師ら医療専門家のコラムやQ&A、共同通信の連載「医療新世紀」などの関連記事も充実。

ゲーム感覚でリハビリ 仮想世界で体の機能回復 新型コロナ対策にも

2020.11.10 0:00
 病気やけがで失われた身体機能を訓練によって取り戻すリハビリテーションの分野で、仮想現実(VR)技術を使った新たな手法が注目されている。ゲーム感覚で楽しみながら課題をクリアしていくことで、体の動きやバランス感覚を少しずつ回復させる狙い。リハビリを手伝う医師や療法士と患者の体があまり密着しないのもメリットだ。新型コロナウイルスの感染リスクを抑えながら、患者が元気な生活を取り戻すのに役立ちそうだ。
 ▽印籠にタッチ
 「うまくタッチできましたね」。兵庫県西宮市の兵庫医大病院にあるリハビリテーションセンター。医師らが見守る中、神戸市の女性(32)がいすに座った状態で両手に握ったコントローラーを前に突き出す。
仮想現実(VR)を使った装置「カグラ」で脳梗塞後のリハビリをする女性=9月、兵庫県西宮市の兵庫医大病院
仮想現実(VR)を使った装置「カグラ」で脳梗塞後のリハビリをする女性=9月、兵庫県西宮市の兵庫医大病院

 

 ゴーグル型のディスプレーにはリアルな奥行きを再現した画面が映る。目の前に次々に現れる「印籠」に手を伸ばしてタッチする。早くしないと近づいてくる忍者に印籠を奪われる。名付けて「水戸黄門ゲーム」だ。
 女性は昨年に脳梗塞を起こして右手がうまく動かせなくなった。手のふるえも起きる。今年7月から同病院でVRを使ったリハビリを開始。すでに10回以上試したが、ふるえがしばらく止まって体が動きやすくなるのを感じる。「はしも使えるようになった。仮想の世界の中に入り込んだみたいで楽しい」と話す。
 ▽脳の柔軟性
 「VRリハビリは20年以上研究されてきたが良いものがなかった」とリハビリテーションセンター長の道免和久教授。「ようやく患者に使えるものが出てきた」と話す。
 脳の柔軟性に着目した「ニューロリハビリテーション」という手法の一つ。訓練のやり方を工夫することで、以前は回復できないと思われていた体の機能を取り戻せる期待がある。
 装置は大阪府豊中市の医療ベンチャー「mediVR(メディブイアール)」が開発した「カグラ(神楽)」。同病院は今年から1台導入し、実際の患者で効果を調べている。道免さんは「まだ症例は少ないが良い効果が期待できそうだ」とみる。
仮想現実(VR)を使ったリハビリ装置「カグラ」を考案した原正彦・島根大客員教授
仮想現実(VR)を使ったリハビリ装置「カグラ」を考案した原正彦・島根大客員教授

 


 カグラを考案したのは島根大の原正彦客員教授。心筋梗塞が専門の循環器内科医だったが、2016年に起業し、昨年3月から販売を始めた。
 心筋梗塞後に脳梗塞を起こしてうまく歩けなくなる患者を見て「効果的なリハビリ方法はないか」と考えたのがきっかけ。すでに病院やリハビリ施設など全国十数カ所で使われている。
 ▽バランス
 原さんは「うまく歩けないのは脚力が衰えたからだと考えがち。だが実際は上半身のバランスが重要だ」と話す。仮想空間の狙った位置に正確に手を伸ばす練習をすることで、脳と体の“ずれ”を修正してバランスを回復させる。歩く以外の体の機能にも効果があるという。
 「何よりも楽しみながら続けられる」と原さん。「お年寄りに『水戸黄門ゲームをやろう』と言うと『うん、やるやる』と返ってくる」と語る。
 新型コロナの国内流行では、集団感染が起きて患者の受け入れができなくなったリハビリ施設が相次いだ。道免さんは「VR装置をうまく使えば患者と療法士の濃厚接触を最小限にとどめることができそうだ」とみている。
 カグラを使う際には患者がいすから落ちないように療法士が横に付く必要がある。それでも正面から向き合ったり、抱きかかえたりする時間が長い従来のリハビリに比べて濃厚接触は少ない。兵庫医大病院ではディスプレーやコントローラーの消毒に加え、マスクや防護シートを使うことで感染防止策を講じている。(共同=吉村敬介)

最新記事