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医療新世紀

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天然痘の根絶から学ぶ 新型コロナとは“共存” ワクチン開発は安全に

2020.10.27 0:00
 人類が根絶できた唯一の感染症が「天然痘」だ。地球規模のワクチン接種が効果を上げた。世界的な流行が続く新型コロナウイルスの収束にも開発中のワクチンが重要な役割を果たすとみられるが、いつになったら実用化できて多くの人に接種できるかはまだ見えない。いったん市中に広がったウイルスを消し去るのも難しそうだ。文明と感染症の“共存”関係について探ってきた長崎大熱帯医学研究所の山本太郎教授に、天然痘の根絶史から見た新型コロナの今後について聞いた。
山本太郎教授
山本太郎教授

 


 ▽付き合い方
 「天然痘と新型コロナはいずれもウイルスが原因だが、症状と感染の広がり方に違いがある」と山本さん。「ただ両者を比べると感染症との付き合い方のヒントが見えてくる」と語る。
 天然痘は感染から7~16日で発熱し、顔や体に発疹ができる。うみなどに含まれるウイルスが感染源。致死率は20~50%にもなるが、症状がある人しか感染を広げない。患者と接触者を取り囲むようにワクチン接種することで封じ込めることができるようになった。世界保健機関(WHO)は、1980年に「根絶宣言」を出した。
 これに対して新型コロナはせきや発熱などの症状がない人からも広がる。無症状のまま動き回って会話に伴う飛沫(ひまつ)でウイルスを拡散する。検査で感染者を見つけても多くの場合は人にうつした後で手遅れだ。
 「ワクチンができても天然痘のような封じ込めが通用しない」と山本さん。「天然痘は人類との付き合いが長い。人に適応しすぎてむしろ根絶しやすい感染症になっていたのかもしれない」と話す。
 ▽集団免疫
 では新型コロナとはどう付き合えばいいのか。山本さんは「ウイルスの根絶は難しい。“共存”の道しか残されていないのではないか」とみる。
天然痘ウイルスの電子顕微鏡写真(米疾病対策センター提供)
天然痘ウイルスの電子顕微鏡写真(米疾病対策センター提供)

 


 人と共存する微生物やウイルスは多い。病気を引き起こすのはごく一部。人の体内には免疫や代謝に欠かせない腸内細菌もすむ。長い間に人と関係を深めてきた結果だ。
 今は多くの人が新型コロナに対する免疫を持たないが、流行が続くと感染して免疫を持った人が増える。子どもから大人、お年寄りまで使える安全で効果的なワクチンが開発できれば、免疫を持つ人をさらに増やせる。流行が広がりにくい「集団免疫」ができる。
 ただ「最近の研究では人口の3~4割が免疫を持つまでは収束は難しいとされる。どうやってそこに持って行くのかが難しい」と山本さん。
 流行が長く続くと高齢者や持病を持つ人が危険にさらされる。リスクが高い人の感染を最小限にとどめ、医療崩壊を起こさない工夫が必要だ。
 ▽安全性
 一方で拙速なワクチン開発はかえって危険だ。山本さんはロシアや中国、米国などで政治主導の動きが出ていることを懸念する。
 ワクチンは18世紀末の英国でジェンナーが天然痘を防ぐために試みた種痘が起源。その後の天然痘ワクチン開発では脳炎などの副作用も起きた。
南太平洋の島国トンガで行われた天然痘ワクチンの接種=1964年(米疾病対策センター提供)
南太平洋の島国トンガで行われた天然痘ワクチンの接種=1964年(米疾病対策センター提供)

 

 多くの健康な人に接種するワクチンは特に高い安全性が求められる。山本さんは「安全性と効果を3段階で確かめる現在のワクチンの承認プロセスは、多くの失敗の反省を踏まえてつくられた。開発を急ぐのはいいが、手続きを省略するのは許されない」と指摘する。
 ゴールが見えないまま感染対策を求められる一般市民の“コロナ疲れ”も懸念材料だ。「走っているのが100メートル走や400メートル走ではないことは分かってきた。もう少しすればマラソンの何キロ地点を走っているかが見えてくるかもしれない」と語る。(共同=吉村敬介)

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