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医療新世紀

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医療に生かすナッジ理論 良い選択をそっと後押し コロナ対策でも応用例

2020.9.4 18:41
 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、スーパーマーケットのレジ周りで床に「足跡」のような模様を見かける。客は意味を深く考えるでもなくその足跡の位置に立ち、自然と「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」が実現する。こうした事例は行動経済学のナッジ理論に当てはまる。人の選択をより良く導く、ちょっとした工夫のことだ。医療、介護の現場にも応用が進む。
 
 

 


 ▽強制でなく
 「ナッジとは本来、肘でつつく、背中をちょっと押すといった意味です」と、医療・介護勤務環境改善ナッジ研究会会長である小池智子慶応大看護医療学部准教授は言う。
 「人はいつも合理的に、熟慮して行動するわけではない。頭で分かっていても行動変容につながらない。最適な選択へ、そっと後押しするのがナッジです」と解説する。
 強制せず、知らず知らずに選ぶようにする。そのためには、人の行動の「癖」を利用する。人は利益より損失に反応し、将来より現在の問題を過大視する。人のためになるルールや社会規範には従いやすい…。
 例えば海外では、臓器提供の意思表示や妊婦のHIV検査について、「希望する」をチェックする方式から「希望しない」をチェックする方式に変更して希望者を増やした。「最初に示された選択肢に従いやすいというナッジ」の応用だ。
 減量には将来の高い目標より「今日7千歩歩く」。成功しやすい目標の方が続きやすい。
赤い制服の日勤者(左端)から引き継ぎを受ける緑の制服の夜勤看護師=熊本市の熊本地域医療センター(画像の一部を加工しています、同センター提供)
赤い制服の日勤者(左端)から引き継ぎを受ける緑の制服の夜勤看護師=熊本市の熊本地域医療センター(画像の一部を加工しています、同センター提供)

 

 ▽2色の制服
 熊本市の病院、熊本地域医療センターは2014年、看護師の制服を日勤は赤、夜勤は緑に色分けした。夜勤明けの看護師が日勤中のナースコールや電話を取れない事情が周囲に伝わらないことを改めたいと、広田昌彦院長(当時)が発案したという。
 これが思わぬ効果を生む。「職場に残っていると目立つ。交代、引き継ぎも容易で、残業が劇的に減った」と大平久美看護部長は言う。
 先輩に気兼ねなく、仕事が終われば帰るようになった。医師は、前夜の患者の様子を聞いたり、日中の処置を指示したりするのに、誰に声を掛けるか迷わなくなった。効果は波及し、毎年数十人いた離職者がほぼいなくなり、業務がいっそう円滑に回るようになった。
 この方式の成功について小池さんは「簡単で分かりやすく、違いを強調して残業を見える化したことで、ナッジの効果が出た」と高く評価する。
 ▽倫理も問われる
 ただし小池さんは「この職場では業務改善の必要性についての共通認識があり、そのための人的資源が整っていたからこそ成果が表れた。すべての職場で効果があるわけではない」と指摘する。
 重要なのは「何が障害になり、何が求められているか」をあくまで個別の事例ごとに精査しておくことだ。誰にでも、どこででも効く「万能のナッジ」はない。
 例えば生活習慣病の療養指導に応用するなら、患者の暮らし方の希望や普段の行動を十分に知り、健康に好ましい行動を思わず選びたくなるようなナッジを用意しなければならない。当事者自身の選択の自由を尊重し、強いないことが原則だ。
 「使い方によっては意に反した選択への誘導、強制になりかねない。何がより良い選択なのか、倫理的に妥当な提示なのかどうか、常に問われている」とくぎを刺した。
 世界では、コロナウイルスの感染防止のために知らず知らずに社会的距離を取ったり、消毒や手洗いをしたくなったりするちょっとした工夫が多数編み出されている。小池さんの研究室では、こうしたナッジの応用例を探し、日本に導入するための調査を始めている。(共同=由藤庸二郎)

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