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医療新世紀

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弱っていた地方の検査体制 新型コロナ抑止の足かせ 人も機材も予算も不足

2020.6.16 19:20
 新型コロナウイルス感染症の拡大抑止で、感染の有無を確かめるためのPCR検査が十分でないことが足かせになっている。なぜ検査を増やせないのか。専門家は、地方衛生研究所の検査体制が削減され、弱体化していたことを指摘した。
PCR検査の現場
PCR検査の現場

 

 ▽行革で削減進む
 前国立感染症研究所感染症疫学センター室長で、地方の公衆衛生の実情に詳しい木村博一群馬パース大教授(感染症学)によると、日本では長らく、1897(明治30)年に施行された旧伝染病予防法に基づいて感染症対策が進められてきた。
 「状況が変わったのは1990年代」と木村さん。47年施行の保健所法が94年「地域保健法」に改められた。
 地域保健法は、保健所が調査・研究活動を、地方の衛生研究所がその科学的、技術的な中核機関を担うことを規定した。衛生研は、今回のようなパンデミック(世界的大流行)の際に検査に基づいて流行状況を集約、報告する役割を担っていた。
 ところが「法改正により従来は国が一定程度補助していた予算が首長の裁量に委ねられた。行革の機運、団塊の世代の退職と合わせて大幅な人員、予算の削減が進んだ」と木村さんはいう。
木村博一教授
木村博一教授

 


 地方衛生研究所全国協議会が行った業務実態調査がそれを裏付ける。2003年から08年の5年間で、全国の衛生研では職員数が13%減り、自治体公務員全体の削減率7%と比べても大きく落ち込んだ。予算も30%減、研究費は47%減とほぼ半減した。
 ▽大きな地域格差
 一方この調査で、都道府県が設置する衛生研の人口10万人当たり職員数では、都道府県の間で0・4~3・0人と大差があることも分かった。主要業務である感染症検査で大きな地域格差が生じ、業務に支障が出かねない地域があると警告も発していた。
 さらに深刻なのは、地域格差が、精度管理など検査能力にも現れたことだ。木村さんは国立感染研在籍当時、厚生労働科学研究班の一員として、各地の衛生研にPCR検査のサンプルを送り、正しく結果を出せるかどうかを調べたことがある。その成績は、衛生研ごとに大きくばらついた。
 「現在の体制では地域内での感染症や食中毒に対応するのが精いっぱい。地方の公衆衛生の“基礎体力”が失われ、パンデミックに耐えられる体制ではなかった」と木村さんは指摘する。
 新型コロナ対策は長丁場になるのが必至。ほかの新興感染症も必ず発生する。一方で検査能力は一朝一夕に増やせない。PCR検査では繊細な精度管理が求められ、一定の確率で検体の汚染(コンタミネーション)が起きる。新型コロナでも各地で報告された事態だ。
 木村さんは現状改革に三つの提言をしている。
 一つは衛生研の役割を明確にする法整備だ。「地域保健法や感染症法に、衛生研の使命と、国と地方それぞれの責務を明記するべきだ」
 二つ目は、自治体や保健所を含め、その責務に応じた予算の確保だ。マスクも足りない、検査機器も少ない、電話相談や検体を運ぶ人手も足りないというのでは決して検査数は増やせない。
 最後は人材育成。「短期的には、感染症発生時にPCRをはじめとする検査が正しくできる人材を育てる。長期的には、感染症やウイルス学、細菌学を究める研究者を確保する。研究費の拡充も欠かせない」と話した。
 木村さんは「この機会に、国として感染症対策の在るべき将来像を描き、責任を持って体制を拡充させなければならない」と訴えた。(共同=由藤庸二郎)

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