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医療新世紀

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患者の痛み思いやる医師に 「心」重視の講座新設  奈良県立医大

2019.8.6 0:00

 病と向き合う患者の心に思いを寄せることができる医師を育てたいと、奈良県立医大(細井裕司学長)が本年度からユニークな講座をスタートさせた。「医師・患者関係学」。患者の自己管理が大切な慢性疾患をはじめ、医師が患者と良好な関係を保てなければ良い治療効果が望めない病気が増えていることなどを重視した。医学と心理学の専門家が協力して教育に当たるのが特徴だ。

   ▽心に付き合う

 講座責任者の石井均教授の専門は糖尿病。腎臓や目の合併症を防ぐために、生涯にわたって血糖値のコントロールが必要になる病気だが、それまでの生活習慣を変えたり適切に薬を使ったりすることがどうしてもできない人がいる。石井さんは医師としてそうした患者への対応を模索する中で、患者が自分の病気を「引き受ける」気持ちになるまで、患者の心に配慮し、付き合い続ける大切さに気付いたという。

石井均さんと皆藤章さん
     石井均さん(左)と皆藤章さん

 共に講座を担う皆藤章特任教授は臨床心理士。京都大教授だった約20年前に石井さんと知り合い、糖尿病患者の心の問題を一緒に研究してきた。

 石井さんらのこうした取り組みが、医師の心の教育を強化したいという県の要請と合致し、講座新設につながった。

   ▽違う視点

 講座は医学科の4~6年生が対象。4年生向けの最初の講義は学生を約60人ずつに分けて5月と6月に行われた。その一つ、6月27日の講義を取材した。複数のテーマについてグループで話し合い、発表した後に各自がリポートを提出する形式の講義だ。

 最初のテーマは「医師の役割とは」。「病気を治す」「チーム医療のリーダー」。求められる医師像が次々に挙がる。一方、自分が患者になったときの体験がテーマになると、インフルエンザで高熱が続き「このまま熱が下がらないのではと不安になった」など、全く違う視点が出てきた。

 その後、講義に招かれた患者が体験を語った。

患者の福本稔也さんの体験を聞く奈良県立医大の学生ら
患者の福本稔也さんの体験を聞く奈良県立医大の学生ら

 血糖値を下げるホルモンであるインスリンがほとんど出なくなる1型糖尿病を6年前に発症した会社員福本稔也さん(58)は当初、指示通りにインスリン注射を打つだけの「医者任せ」の患者だったが、強迫観念に駆られるように血糖値の変化に一喜一憂した時期もある。現在は、医師から掛けられた「糖尿病と折り合いがつきましたか?」という言葉に「そう思える時間が増えた、と答えられるようになった」と振り返った上で「医師は心のサポーターだった。糖尿病のおかげで人生が豊かになった」と話した。

   ▽変化を見守る

 講義の終わりに皆藤さんが「病を引き受けて生きていくとはどういうことだろう」と課題を投げ掛けた。

 ある学生の感想は「人生の一つとして病気があると思った」。別の学生は「患者さんの状況に合わせて心のよりどころになれる医師になることが大切と感じた」と話した。

 医師・患者関係学講座では糖尿病やがんなどの慢性疾患のほか、患者が短時間で事態を理解しなければならない救急医療、難解な技術が絡む高度医療の場面で患者とどうコミュニケーションを取るかについても学ぶ。5年生は、診療科での臨床実習の際に患者の話を聞き、患者の視点から病気を考える学習を重ね、6年生では、さらに考察を深めるという。

 石井さんは「最初の講義を聴いた4年生が一応の区切りに到達するのは3年後。成果が測りにくい分野だが、学生の変化に注目していく」とし、皆藤さんは「医学教育の中で患者の心理に焦点を当てる取り組みは少ない。より良い方法を模索し続けたい」と話す。

(共同通信 吉本明美)

 

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