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医療新世紀

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「病、それから」岡本美鈴さん(フリーダイビング選手) 心に素直、先延ばしせず

2019.4.4 0:00

 人魚のように深海に溶け込む。空気タンクなしで潜る深さを競うフリーダイビング日本女子の岡本美鈴さん(46)は卵巣のう腫手術と地下鉄サリン事件を経験した。「この二つの出来事があったから、今の私がある」と記録更新に挑む。

    ×   ×   ×

 東京でエレベーター関係の営業の仕事をしていた1996年12月、卵巣のう腫の手術を受けました。23歳の時です。仕事が充実し、終電の帰宅も苦にならない時期でした。

 会社の健康診断で貧血を指摘されていましたが、他は異常なし。でも実は兆候はありました。約1年前から、おなかが全体的に重くて、痛い。徐々に大きくなり、隠すために大きなジャケットを着て得意先回りをしました。息苦しい感覚もありましたが、太ったからだと思っていました。

岡本美鈴さん
        岡本美鈴さん

   ▽臨月のよう

 ある日の晩、調子が悪いので「おなかを見て」と母に頼みました。力を入れると小さなビアだる、力を抜くと臨月の妊婦さんです。母は驚き、すぐ近くの病院に行けと言いました。でもそこでは診断がつかず、大学病院を紹介されました。

 検査の結果、おなかに卵巣の腫瘍が広がり、内臓を押し上げていました。手術で卵巣の左全部と右の一部を摘出。執刀医は術後に水着姿になるかもと、へそから下にメスを入れようとしたそうですが、腫瘍が大き過ぎて、みぞおちから下になってしまいました。

 死の恐怖はありましたね。腫瘍は良性でしたが、破裂寸前で危なかったと後で聞かされ、ぞっとしました。無知から生じる勘違い。直前まで腹筋をしていたぐらいですから。将来、結婚・出産できるかということよりも、再発の恐れがあると言われたので、それがずっと気になっていました。

   ▽腫瘍は5キロ

 卵巣の腫瘍は約5キロ。医師がサンタクロースみたいにポリ袋に入れてかついできて、母に見せました。絵が得意な母はスケッチします。ひょうたんのような形で、腹筋していたせいか、くびれがありました。術前は世の中の景色が灰色がかっていましたが、術後は彩りが戻った気がしました。

 実は手術の1年9カ月ほど前、通勤途中の日比谷線で、地下鉄サリン事件に遭遇しました。サリンがまかれた車両から離れていたので、点滴を受けただけで、症状は軽くて済みました。

 でも病気と事件を経験し、自分に何が起こるか分からないと痛感しました。静養した後、野生のイルカに憧れ、小笠原諸島に見に行きました。やりたいことは先延ばしをやめて素直に実行しよう。そう決意したのが、今につながっています。

   ▽再発の不安

 2003年に沖縄旅行の帰りに飛行機の中で、たまたまフリーダイビングの日本代表の男子選手と隣同士になりました。大会ビデオを借り、海洋植物みたいにゆっくり潜る姿に魅了されました。

 最初は金づちでしたが、フリーダイビング「日本女王」の松元恵(まつもと・めぐみ)さんから教わり、没頭していきます。最初は8メートル潜るのがやっと。競技開始から3年で61メートルに。昨夏のバハマ大会で95メートルと自己記録を1メートル更新しました。

 息をつかない時間は3分ちょっと。深い海は居心地が悪く、体がつぶされるようになります。でも力を抜くと、宇宙に放り投げられたような感覚。陸上にない魅力です。

 十分なパフォーマンスを出すには、ぎりぎりの年齢です。でもきちんと準備すれば、記録を塗り替えて進化できる。今も再発の不安は消えません。だからこそ、競技を極めるとともに質のいい指導者を育成することをいつも意識しています。

(聞き手・志田勉、写真・牧野俊樹)

◎岡本美鈴(おかもと・みすず)さん 1973年東京生まれ、千葉県浦安市で育つ。2015年フリーダイビング世界選手権女子で金メダル。練習拠点でありダイビング教室も開く神奈川県真鶴町で観光大使を務める。余暇は会社員の夫と海に潜る。ペットはチワワ2匹。

◎卵巣のう腫 良性の卵巣腫瘍の一つ。卵巣にできる腫瘍の中で最も多い。悪性のがんが40代以降に多いのに対し20~30代の若年にもみられる。通常、症状はほとんどないが、大きい場合は腹痛などの原因となり、手術で切除するのが一般的。

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