若年特有の課題語り合う AYAがん初の学術集会 個別のニーズに支援を

がん患者のうち15~39歳の思春期から若年成人までを合わせて呼ぶ「AYA世代」では、治療や療養生活で特有の悩みがあることが分かってきた。この問題に取り組む「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」の初の学術集会が2月、名古屋市で開かれ、500人以上の参加者が、山積する課題と具体的な支援策を語り合った。浮かび上がったのは、病状も生活スタイルも多様な患者一人一人の個別の悩みに向き合うことの重要性だ。
▽治療改善に遅れ
研究会(略称AYA研)は昨年4月に設立。学術集会には、医師、看護師、医療ソーシャルワーカーらのほか患者やがん経験者、家族、支援団体、行政の担当者らが参加した。

基調講演した厚生労働省の担当者は、AYA世代のがんが、2018年に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画に盛り込まれた経緯を説明。
相談や就労支援、がん経験者のフォローアップの充実などを図るため、小児と成人のがんを診る拠点病院、地域の医療機関が互いに連携する必要性を訴えた。
次いで、国立国際医療研究センター病院乳腺腫瘍内科の清水千佳子科長は、AYA世代では多様ながんが発生するが、それぞれの患者が少なく、診療科が多数にわたるため、ほかの世代に比べ、がんの治療成績が改善する幅が小さいとの米国のデータを紹介。
思春期は病気がなくても就学や将来のことを悩む時期で、成人すれば就労と生活の自立、結婚や出産など次々に課題が生じると指摘して「大事なのは世代ではなく、患者の個別性だ」と強調した。
▽マンパワー不足
清水さんは支援の具体策については、拠点病院でも単独ですべての専門家を配置できないことから、ネットワーク構築が不可欠だとし、患者に対して支援策を「見える化」すること、教育関係者ら外部にも支援を求めることが必要だとした。
続くシンポジウムでは、国立病院機構名古屋医療センター小児科の前田尚子医長が具体的な悩みについて報告。この世代では(1)小児がんの経験者(2)小児がんを経験し、再発などで今がん治療を受けている人(3)この世代で初めて発症した人―の3グループがあり、小児がん経験だけの人は、過酷な治療や再発の不安などでストレスが強く、病気の受容や健康管理への意識が不足するケースがあるとした。高校生の患者の調査では、留年などを余儀なくされる場合があり、現状では自治体や学校ごとに支援策に濃淡があることも指摘した。
自らが小児がんを経験し、若年性がん患者のための団体「STAND UP!!(スタンドアップ)」を設立した東京都立小児総合医療センターの松井基浩医師は、患者の病状や背景は多種多様であり、例えば就労の際に病歴を明らかにするかどうかといった難問には、できるだけ多くの経験者(ピア)が相談に応じる体制が大切だと指摘。そのためのマンパワーがまだまだ足りないとした。
▽きめ細かい議論を
研究会の理事長である堀部敬三・名古屋医療センター臨床研究センター長は「発表会場での議論を通じて、ネットワークを広げてほしい」と、多職種、地域間の連携強化を呼び掛け、個別の取り組みについてのポスター発表会場では、参加者同士の交流、議論の輪ができた。
全国から駆け付けたがん経験者や支援者は学術集会終了後、「この世代の中でも発病時期やその後の経過に大きな差がある。もっと個別に議論してほしい」と、よりきめ細かい支援の必要性を訴えた。
(共同通信 由藤庸二郎)