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医療新世紀

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「出産率は上がらず」流産防ぐ受精卵診断で判明問われる丁寧な説明

2015.7.7 9:21
 流産を防ぐ目的で受精卵の染色体の一部を調べる先端的な診断を受けても、子どもを出産できる確率は受けなかった場合と変わらない―。国内のチームがこんな意外な研究結果を発表し、注目されている。診断は無意味なのか、なお受ける意義はあるか。判断は分かれそうだ。専門家は、先端医療技術の利用をめぐるメリットとデメリットの丁寧な説明が一層重要になったと指摘している。

「出産率は上がらず」流産防ぐ受精卵診断で判明問われる丁寧な説明
 ▽流産は減るが
 受精卵診断は、体外受精した受精卵から細胞の一部を取り出して特定の染色体を検査し、異常がないものを選んで子宮に移植し出産を目指す先端技術で「着床前診断」とも呼ばれる。夫婦のいずれかに「均衡型転座」という染色体異常があるため流産を繰り返す人に対し、異常のない受精卵を選ぶ診断の実施が2006年に認められた。
 名古屋市立大 とセントマザー産婦人科医院(北九州市)のチームは、同年以降いずれかの施設で受精卵診断を受けた37人と、自然妊娠を希望した52人を昨年まで追跡。
 受精卵診断後に出産した人は25人(67・6%)で自然妊娠の34人(65・4%)と出産率に統計学的な差がなかった。妊娠までの期間も平均12・4カ月対11・4カ月で差なし。一方、出産までの平均流産回数は受精卵診断を受けたグループが0・24回で自然妊娠組(0・58回)より少なかった。結果は6月中旬に米科学誌に発表された。

「出産率は上がらず」流産防ぐ受精卵診断で判明問われる丁寧な説明
 ▽予想していた
 チームの杉浦真弓・名古屋市立大教授(産婦人科)はこの結果を「予想していた」と話す。
 杉浦さんは、均衡型転座による習慣流産の人たちが最終的には出産できる例が少なくないことに着目し、追跡調査したことがあった。その結果、7割近くが出産にこぎつけていた。一方、受精卵診断をする場合に必要になる体外受精は、1回当たりの出産率に限界があることが知られている。そこで今回、受精卵診断の有無によって出産率を比較する研究を計画したのだという。
 受精卵診断で流産は減るが出産率は上がらないという今回の結果は、異常のない受精卵を選ぶことで流産の確率は下がるが、妊娠しやすい受精卵も限られているためではないかと杉浦さんはみる。「受精卵診断を受ければ出産できるようになるとの誤解があるように感じる。この研究が女性たちに冷静な判断材料を提供できれば」と話す。

 ▽本人の価値観
 しかし、出産率が上がらなければ意味がないとは言えないと指摘する専門家もいる。習慣流産に詳しい日本医科大 の竹下俊行教授(産婦人科)は「流産は肉体的にも精神的にも非常につらい経験で、流産が怖いからもう妊娠したくないと言う女性もいる。ほかに不妊の原因があって体外受精を受ける必要がある人の場合は、流産してしまうと、体の状態が整うまで数カ月は次の体外受精を受けられない。その点でも流産を避けるメリットはある」という。
 一方で、体外受精にも排卵誘発剤などの副作用リスクや多額の費用負担が伴う。どちらを選ぶのかは、その人の人生観や経済的な事情にもよる。
 生殖医療分野の看護を専門とする聖路加国際大 の森明子教授は「受精卵診断と自然妊娠のメリット、デメリットを事前のカウンセリングで丁寧に説明し、当事者が自分には何が最も大切なのかを分かった上で選択できるような手助けが必要だ。欧米では、文章や図を使い、問題点を目に見える形で整理するような意思決定支援ツールの開発が進んでおり、こうした物の活用も検討すべきではないか」と指摘している。
(共同通信 吉本明美)

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