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医療新世紀

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「病、それから」坂田明さん(ジャズミュージシャン)生きた音聴かせる喜び   

2018.8.28 12:56

   ジャズミュージシャン坂田明さん(73)のちょっと小さめの体には、パワーが満ち満ちている感じがする。だが16年前、57歳のときに脳出血を患い、今もしゃべったり字を書いたりするのに不自由を感じている。ひょうひょうとしたたたずまいの裏には、再び力強く、かつ繊細にサックスを吹くために、人知れぬ努力があった。

 ×   ×   ×

 「おまえ、そんな吹き方してたらいつか切れるぞ」ってずっと言われてて。それでまあ、切れちゃった、と。

 自分では気付かなかったんだけど、朝起きたら嫁さんが「ろれつが回ってない」って言うんでね。かかりつけの医者に電話したら、まあ脳だろうと。近くの総合病院で、CT(コンピューター断層撮影)で「ここです」ってすぐ分かって、そのまま入院。出血はもう止まっていて、2週間で退院できた。最初の処置は極めてよく、軽くすんだわけですよ。

坂田明さん
       坂田明さん

 ▽砂上の楼閣

 でも左の脳なので(後遺症が)右に来たんだけど、ろれつが回らないのとね、字が書けないのにはがっくりきたなあ。3カ月くらい家でぼーっとしてたね。サックスもね、舌のこともあるけど、右がまひして体のバランスが崩れてるから。体幹がしっかりしてないと吹けないんだね。

 俺の場合は基礎がなかったから。最初からインチキだから。基礎がないところに砂上の楼閣を建てて、演奏しながら基礎をつくっていくようなことをずっと四十何年やってきた。それはそれで自分としてはうまくいってたんだけど、突然「どうやって吹くんだっけ?」って。振り出しに戻る、てなもんでね。

 ▽基礎ができた

 これは体を鍛えなきゃって週に1度、近所の体育館で1時間くらい運動してた。そして病気の翌年だったかな。ある所でフィジカルエデュケーターの安光達雄さんと知り合ってね。彼が俺用のトレーニングメニューをつくってくれたんですよ。

 「スタビライゼーション」つって、アスリートがやってるのの易しいやつを10年以上やって。2年前からはゴムチューブを使って体幹を鍛える運動をやってるんだけど、これが特に効いた。

 それでとうとう基礎ができちゃったわけ。70過ぎて。ずっとごまかしごまかしやってきたのを、去年くらいにようやく「サックスの吹き方が分かった」って感じですよ。

 なんだこういうことだったのか。死ぬまでに間に合ってよかったと思ってね。この春にヨーロッパツアーをやって、確信を持ちました。基本フォームがようやく固まったんじゃないかな。

 ▽生きた音を

 そこにさ、例えばベルギーで「40年前にドイツであなたの演奏を聴いた」なんてやつが来てくれたりして。そういうことがあちこちであるんだよ。単に「昔、聴きました」ってんなら何の意味もないわけ、俺にとっては。過去のことだから。だけど今、自分がきちんと生きた音を出しているのをまた聴きに来てくれる人がいるっていうことは、すごくうれしいよね。

 思えば脳出血の後も、絶望するってことはなかったな。下手したら演奏できなくなってたかもしれないんだから。俺にはもうちょっと役割が残ってるのかもしれない。その役割を果たすために、もう一回できるかな。そう思ったんです。

 今一緒にバンドやっているジム・オルークとか若い連中が、俺のことをすごく尊敬してくれてね。年齢じゃないよね。お互いに「こいつすごいな」と思える人間と何かやりたい―。それが大きなモチベーションになって、やってきたんだね。(聞き手・岩川洋成、写真・松下明子)

◎坂田明(さかた・あきら)さん略歴  1945年広島県呉市生まれ。広島大卒。72年、山下洋輔(やました・ようすけ)トリオに参加。以来、サックスプレーヤーとしてジャズの最前線に立ち続ける。ミジンコの飼育、繁殖、観察は趣味の域を超え「私説 ミジンコ大全」などの著書もある。

◎脳出血 高血圧などのため脳内の細い血管が破れて出血し、その血液に圧迫され脳細胞が損傷を受ける病気。出血の量や箇所により症状は異なるが、脳の左側での出血だと、右手足の運動機能や感覚のほか、言語機能に障害が出ることが多い。

 

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