いつも手軽に「肝炎体操」 がん患者のリハビリに 運動効果の秘密も探る

▽病院や自宅で
「いーち、にー、さーん」。筑後川を望む久留米大病院(福岡県久留米市)の一室に理学療法士の神谷俊次さんの声が響く。参加する80代女性と70代男性が両手に持ったタオルを頭の上に高く上げる。神谷さんはタオルを背中側に引き下ろすお手本を示しながら「肩甲骨を内側に引き寄せるように意識して」と2人にアドバイスする。
女性は肝硬変から肝がんになり、通院しながら抗がん剤治療を続けている。経過や体調は良好。市内で独り暮らしだが、デイケア施設に通って知人と話をするのが日々の楽しみだ。
いすの背につかまりながら、ふくらはぎを伸ばすストレッチを終えると、女性は「全然つらくない。まだまだできるわね」と余裕の様子。神谷さんは「自宅でも続けてみて」と励ます。

▽無理なく
肝炎体操は、久留米大の川口巧准教授(消化器内科)と橋田竜騎講師(整形外科)が3年前に考案した。消化器体操と呼ぶこともある。同病院の消化器内科では週1回、患者を集めてリハビリに活用している。入院するとベッドに横になる時間が長くなって筋肉が衰えがち。その場でできて、体力が落ちた人でも無理なく続けられるよう工夫した。
最初は腕を大きく振りながらリズミカルに足踏みするウオームアップ。次に両手を胸の前で交差させて「お辞儀」の動作。肩や背中の筋肉を使う「タオル運動」。お尻や腰の筋肉を鍛える「スクワット」。足首を引き締める「つま先立ち」の4種類が続く。最後はストレッチで締める。
短い時間や少ない回数から始め、楽にできるようになったらそれぞれ10~20回反復する。所要時間は全部で15分ほど。気が向いた時にいつでもできる。
▽第2の肝臓
なぜ肝臓の病気なのに筋肉を鍛えるのか。
「筋肉が維持された肝がん患者は筋肉が衰えた患者に比べて長生きすることが知られている」と川口さん。「筋肉は『第2の肝臓』とも呼ばれる。病気で低下した肝臓の機能を補う働きがある」と説明する。
筋肉はタンパク質だけでなくエネルギーの貯蔵庫。肝臓にため込んだエネルギーが不足しても、筋肉が代わりに供給してくれる。肝臓の働きが落ちると、老廃物のアンモニアが分解できなくなって神経症状を伴う「肝性脳症」が起きることがある。アンモニアは筋肉でも分解されるため脳症の緩和が期待できる。
注目しているのが筋肉から分泌され「マイオカイン」と総称されるさまざまなホルモン。抗がん作用や抗酸化作用など健康へのプラス面が最近報告されている。
川口さんらは体操した患者の血中のマイオカインを分析し、健康との関係を追跡する研究を進めている。「どの程度の運動によって健康改善効果が期待できるかを見極めたい」と話す。
肝炎体操の詳しいやり方は国立国際医療研究センター・肝炎情報センターのホームページに掲載されている。(共同=吉村敬介)