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暮らしの中に医療を 街づくりで実現目指す ストリートメディカル

2021.12.14 0:00
 住んでいると健康になり、病気の人も幸せに生活できる街を―。暮らしの中に医療の考え方を取り入れて、誰もが恩恵を受けられるようにする取り組みを、東京医科歯科大の武部貴則教授(横浜市立大特別教授)が構想している。病院から飛び出して社会に医療を根付かせる「ストリートメディカル」を提唱。横浜市の都市再開発に合わせ、健康につながる街づくりに向けたさまざまなアイデアの実証を目指す。「高齢化が進む全国の地方都市にも普及させたい」と意気込んでいる。
金沢八景駅に設置された、絵が描かれていて上りたくなる階段=2015年2月、横浜市(武部貴則さん提供)
金沢八景駅に設置された、絵が描かれていて上りたくなる階段=2015年2月、横浜市(武部貴則さん提供)

 

 ▽上りたい階段
 武部さんは病気や事故で失われた体の機能を、幹細胞を使って回復させる「再生医療」の研究者。人工臓器などの分野で世界の最先端を走る。
 一見「暮らしの中の医療」は畑違いに思える。だが「従来の医療でカバーできない人を救いたいという意味では同じ」と説明する。
 病気になるリスクがある人、体の不調が顕在化する前の人を踏みとどまらせて患者になるのを防ぐ。さらにお年寄りや体が不自由な人、治療中の患者が、健康な人と同じように不便なく暮らせる環境を整える。
 これまでに、描かれた絵を見るために自然に上りたくなる階段を横浜市の金沢八景駅に設置する実験を行った。また神奈川県庁舎の階段を登山に見立てて、上に行くにつれて山麓、中腹、山頂の写真が見られるような試みもした。いずれも階段の利用者が増えた。
 ▽動機づけ
 肥満や生活習慣病の疑いのある人は運動や食習慣の改善などを求められる。ただ「健康づくりが目的化すると長続きしない。楽しさを求めてつい体を動かしてしまう前向きな要素が必要だ」と武部さん。
 人によって行動の動機づけになる要素はさまざま。どんな工夫が行動促進に有効かをビッグデータで検証することを考えている。
 実際の街づくりでは、ピアノの鍵盤のように音が出る階段や、運動すると動きが電力に変換されてスマートフォンが充電できる公園などのアイデアを提案する。
 仮想現実(VR)やロボット技術の活用も有効だ。人工衛星やドローンを使って視力が弱い人を遠隔でサポートしたり、車いすごと乗ることができる電気自動車(EV)を普及させたりすることも役立ちそうだ。がん治療で入院を余儀なくされた子どものために、家族と一緒に暮らせる住居を備えた病院も構想する。
東京医科歯科大の武部貴則教授(横浜市立大提供、正村直子さん撮影)
東京医科歯科大の武部貴則教授(横浜市立大提供、正村直子さん撮影)

 

 ▽研究拠点
 武部さんがこうした取り組みを始めたきっかけは、幼い頃に脳出血で倒れた父親の闘病生活だった。
 奇跡的に回復したが一時は別れも覚悟した。父は病院嫌いで生活も忙しく、健康診断の結果が思わしくないのに診療を受けなかった。医学部で学ぶうちに「人によっては病気を見つけて治療するのでは遅すぎる。もっと早く打つ手があるはずだ」と考えるようになった。
 ただ従来の医療から大きくはみ出す分野のため研究者1人では実現が難しい。武部さんは横浜市立大にストリートメディカルの研究拠点となる「コミュニケーション・デザイン・センター」を設置した。
 広告分野のクリエーターやデザイナー、医療の専門家らが学生と一緒にアイデアを具体化する。企業との事業化も動きだした。横浜市の関内駅周辺の都市再開発に合わせて数々のアイデアを提案している。
 武部さんは「多くの人の幸せと健康を実現するため、自治体や企業、幅広い分野の専門家を巻き込んで仲間や当事者を増やしたい」と語っている。(共同=吉村敬介)

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