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途上国の認知症に警鐘 対処可能なリスク示す 大気汚染、頭部外傷も

2021.3.16 0:00
 英医学誌ランセットの委員会が、生涯にわたって影響を及ぼしうる「認知症のリスク要因」の新たな報告書をまとめた。先進国だけでなく、これから高齢化社会を迎える発展途上国も念頭に置いた。若い時期の教育を充実させ、難聴や高血圧、頭部外傷や大気汚染の影響を減らす施策を促す内容。生活習慣病にも関係する喫煙や過度の飲酒、運動不足への注意も呼び掛けた。専門家は「認知症に限らず健康で上手に年を取るためのヒントが示されている」と話す。
 ▽12項目
横浜市立脳卒中・神経脊椎センターの秋山治彦・臨床研究部長(同センター提供)
横浜市立脳卒中・神経脊椎センターの秋山治彦・臨床研究部長(同センター提供)

 国際アルツハイマー病協会(ADI)の推計では、高所得国の認知症患者は2050年に20年の2倍になるが、低所得国や中所得国では3倍に増える。横浜市立脳卒中・神経脊椎センターの秋山治彦・臨床研究部長は「経済基盤が弱い国は社会的コストが増大し、先進国以上に深刻な問題になる」と指摘する。

 アルツハイマー病の発症を遅らせる薬の開発も進むが、世界中の人々に行き渡るのはずっと先になりそうだ。秋山さんは報告書について「その前に途上国でも施策レベルで何ができるかを示した」と解説する。
 17年に発表した前回の報告書では9項目(低教育歴、難聴、高血圧、肥満、喫煙、うつ、社会的孤立、運動不足、糖尿病)のリスクを挙げた。昨年8月の新たな報告書は、最新研究に基づき「頭部外傷」「過度の飲酒」「大気汚染」を加えて12項目とした。対処が難しい加齢や遺伝性のリスクは除いている。
 ▽受動喫煙
 年代によって影響が大きいリスクを示したのが特徴。「若齢期(45歳未満)」は特に教育の影響が大きい。若い時に十分な教育を受けることが生涯にわたる認知機能の維持に役立つとする「認知予備能(コグニティブリザーブ)」という考え方が背景にある。
 「中年期(45~65歳)」のリスクで大きいのが難聴だ。聴力低下は認知機能に悪影響を及ぼすが補聴器を使えば緩和できるとされる。高血圧や肥満のリスクは知られていたが、スポーツや交通事故で頭部外傷を受けると危険性が高まることが最近になって分かってきた。過度の飲酒も認知機能の低下につながるとの見方が強まった。
 「晩年期(65歳より上)」には喫煙やうつ、糖尿病がリスクになると指摘。社会的孤立や運動不足も認知機能に悪影響を及ぼす。微小粒子状物質(PM2・5)などの大気汚染もリスク要因に挙げられたが、認知症を引き起こすメカニズムには未解明な点が多い。
 「日本の大気汚染レベルなら問題ない」と秋山さん。「むしろ受動喫煙の影響の方が心配。たばこは血管障害を引き起こして認知症の危険性を高める」と語る。
 
 

 

 ▽共生と予防
 では高齢者の7人に1人が認知症と言われる日本の対策はどうか。秋山さんは「まずは認知症の人が尊厳を持って暮らしやすい社会をつくる『共生』を目指すのが基本方針。その中で少しずつ病気の『予防』にも取り組んでいる」と話す。
 予防といっても単に認知症にならないという意味ではない。発症の時期を遅らせる、発症しても進行を遅らせるという広い意味だ。「認知症の症状は人によってさまざま。脳のアルツハイマー病変など生物学的なマーカーに応じてどんな治療法が有効か調べる研究が始まっている」という。
 12項目のリスク要因を見ると、認知機能だけでなく、老化に伴って低下する身体機能を維持するのに役立つものばかりだ。秋山さんは「日本でもこうしたリスクに対処する施策を、今以上に総合的に進めていくことが重要だ」と語る。(共同=吉村敬介)

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