透析方法「腹膜」も視野に 自分で操作、高い自由度 生活にあった選択を

▽海外への旅
「昨年7月の腹膜透析導入後、10月に北海道、11月に故郷の台湾に行きました。今年は米国とロンドンへ。こんなに自由に旅ができるとは夢にも思わなかった」
東京都内のマンションで1人暮らしをする丘玉蓉さん(70)は生き生きした表情で話す。
40年前、今は亡き夫の転勤で来日、その後日本国籍を取得した。慢性腎炎を指摘されたのは30代のころ。治療せずに年月を重ねるうちに腎機能は徐々に低下、1年半前、そろそろ透析が必要と診断された。血液透析に必要な「シャント」という血管の回路を腕に造設し、導入の日に備えた。
だが「透析になる前にやってみたい」と、以前から関心があったスキューバダイビングに挑戦したところ、シャントに不具合が生じた。これを機に主治医は透析方法の再考を勧めた。自己管理が大変ではないかと不安を感じたが、最後は納得して腹膜透析を選んだ。
▽自動交換も
日本透析医学会によると、国内の透析患者は約33万5千人。その大半は血液透析で、腹膜透析は約9千人にすぎない。
どんな治療法なのか。腹膜透析では、柔らかい樹脂製の管(カテーテル)をあらかじめ手術で腹に埋め込んでおく。この管から透析液2リットルを腹腔(ふくくう)内に注入、数時間ためておくと、腹腔を包む腹膜を透過して老廃物や水分が透析液中にしみ出す。
その後、古い透析液を排出し、新しい透析液を注入する。この操作を患者自身が1日3~4回繰り返す。1回30分前後を要するが、自宅でも外出先でも操作は可能。通院は月1回程度で済む。
利点はまだある。血液透析に比べゆっくり水分や老廃物を除くため体に優しい。わずかに残る腎臓の働きが守られ、尿が出なくなる時期を先延ばしできる。食事でのカリウム制限や治療のたびに針を刺す痛みもない。
昼間の透析液交換が面倒なら、就寝中に機械が自動交換するシステムもある。操作は朝晩2回で自由度はさらに高まる。
丘さんは現在、自宅でこのシステムを利用。旅行には機械を持って行けないが、宿泊先に透析液を送っておけば、注・排液は自分の手で行えるので支障はないという。
短所もある。発生頻度は低いが、透析液交換の際に細菌が管から入り込むと腹膜炎になる恐れがある。また、5~10年で腹膜の働きが低下するため、いずれは血液透析に移行せざるを得ない。
海外の腹膜透析普及率は欧米が1、2割程度、香港7割など。なぜ日本は極端に低いのか。腎臓病治療に長年携わる小松康宏群馬大教授は「患者さんへの説明が不十分。そもそも腹膜透析を詳しく説明できる医師が少ない。患者さんは十分に比較検討する間もなく国内で主流の血液透析を選んでしまう」と分析する。
そこで大切なのが共同意思決定(SDM)という方法。患者の生活や習慣、思いなどを本人と医療者が共有し、一緒に治療方法を考える。「豊かな療養生活のためには医学的観点だけで決められないこともある。SDMは最善の選択に役立つはずです」と小松教授は話す。(共同=赤坂達也)