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補聴器で認知症に対処 耳に合わせて進行抑制  専門医に相談を

2022.3.4 0:00
 誰でも年齢を重ねると耳が遠くなって周囲の音が聞こえにくくなる。聴覚は日常生活に関わるさまざまな認知機能と関係しており、難聴があると認知症の度合いが高い傾向が知られている。国立長寿医療研究センターのチームは、補聴器をうまく使えば認知機能の低下が進むのを抑制できる可能性を日本人で示した。同センター研究員で豊田浄水こころのクリニック(愛知県豊田市)の杉浦彩子副院長は「難聴はお年寄りの社会的孤立にもつながる。専門医に相談して耳に合ったものを選んでほしい」と話す。
国立長寿医療研究センター研究員で豊田浄水こころのクリニック副院長の杉浦彩子さん
国立長寿医療研究センター研究員で豊田浄水こころのクリニック副院長の杉浦彩子さん

 

 ▽最大のリスク
 難聴と認知症の関係は古くから言われてきた。2011年に米国のチームが長期にわたる高齢者の追跡結果を示して各国で研究が進んだ。
 日本では愛知医科大の内田育恵准教授らが長寿医療研究センターの「老化に関する長期縦断疫学研究」の高齢者を分析。難聴がある場合はない場合に比べ、その後に認知機能が低下する度合いが高いのを確かめた。杉浦さんも分析に参加した。
 英医学誌ランセットの委員会は17年と20年、難聴は高血圧や喫煙、肥満などと並んで認知症のリスク要因だとする報告書を発表。加齢や遺伝など対処が難しいものを除くと、難聴が最大の予防可能なリスク要因だと指摘している。
 ▽低下が緩やかに
 海外では補聴器を使うことで認知機能の低下を抑制できたとの報告がある。「日本人でも同じことが言えるだろうか」。そう考えた杉浦さんは、長寿医療研究センターの疫学研究に参加した高齢者約400人のデータを1997年から最長16年にわたって追跡した。
 対象は中等度の難聴の人。近くで話したりテレビの音量を上げたりしないと聞こえにくい。生活に支障が出るレベルだ。
 補聴器を使っている人と使っていない人が含まれる。3年ごとに4種類のテストで認知機能の変化を調べた。
 すると補聴器の使用者は非使用者に比べ、一般的な知識を尋ねるテストの成績が、年齢とともに低下する度合いが緩やかになっていた。「現在の首相は誰?」などクイズのような質問だ。
 一方、部分的に欠けた絵を補ったり、記号情報を素早く処理したりするテストでは補聴器使用による差がなかった。杉浦さんは「加齢で認知機能が低下するのは避けられない。ただ補聴器によって一般的知識の低下をある程度抑えられる可能性がある」と説明する。

 ▽長く快適に
個人の耳の形に合わせた耳穴型補聴器
個人の耳の形に合わせた耳穴型補聴器

 

 難聴と認知症が関係するメカニズムにはさまざまな説がある。耳から入る情報が減って脳の神経が使われなくなり、認知機能に影響を及ぼす。音を聞き取るのが精いっぱいになって理解力や判断力に支障が出る。認知症の原因となる脳の萎縮が難聴を引き起こすことも考えられる。
 難聴があると周囲と会話しなくなって生活が不活発になりがち。社会的孤立はそれ自体が認知症のリスクだ。杉浦さんは「中等度以上の難聴の人が補聴器を使うメリットは大きい」と話す。
 「最近の補聴器は小型で高性能なものが増えている」と説明するのは名古屋市で「あかり補聴器」を経営する認定補聴器技能者の橋本孝介(はしもと・こうすけ)さん。
 個人の難聴の症状や、耳の穴の形に合った性能のものを選ぶのが長く快適に使うこつ。日本耳鼻咽喉科学会が認定する「補聴器相談医」に相談するのがおすすめだ。
 課題もある。デンマークなど欧州の国では中等度の難聴に補聴器の補助があるが、日本は中等度の大人には補助がない。杉浦さんは「今回の研究を受けて保険適用も含め補助の拡大を求めたい」と話す。(共同=吉村敬介)

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